『在日徒然抄』 (9) 鄭 煥麒 名誉顧問
   
ざいにちつれづれしょう
在日徒然抄
河出書房新社
初版発行
2002年 10月10日
変化に目をつぶるな

南北の和解をめざす「南北共同宣言」が署名されてから1ヶ月が過ぎた。その間、共同宣言の実現に向けて、
南北それぞれが国内的にも大きく変化していることを新聞等でしることができる。

北朝鮮側では、労働党機関誌の「労働新聞」内閣の機関誌「民主朝鮮」の紙面から韓国批判のページが
まったく消えたそうである。

また、今までのことからは想像もできなかったことだが、南北会談の様子や30日に金剛山で開かれていた
南北赤十字会談の様子を、南北双方の団長が署名して正式に発効した、いち早く「朝鮮中央テレビ」が報道した。

この赤十字会談結果は先の南北共同宣言のなかで最も重要視されたもので、韓国側は来る8月15日に
離散家族の申し入れ、北側はスパイ容疑で非転向長期囚の送還が先行で8月初旬には実行すべきだと主張、
早くも双方の思惑の違いが表面化した。

私は、1972年の「7.4南北共同宣言」、92年の「南北基本合意書」の過去2回の統一に向けての合意事項が、
いずれも死文化しているのが脳裏を走り、今回の共同宣言に対して疑念が湧いたことも事実である。

しかし、30日の会談結果はどうであろう。今までの考え方からすれば北側の大幅な譲歩とも言える形で合意した。
もちろん今までの北側の状況から判断して、これからも共同宣言の履行にはさまざまな紆余屈曲があるだろう。
しかし、従来の対韓国に対する政策の変化からは目が離せない。 

それでは、なぜこうも対南政策に急激な変化をもたらしたのだろう。
歴史的な南北首脳会談のはじまる10日前、金正日総書記は突然中国を訪問し、
17年ぶりに車中から北京の町並みを眺め、「天安門広場と北京飯店以外はわからない」と言って
その変貌にびっくりしたらしい。

マスコミの報道によると、中国の代表的なコンピューターメーカーを視察し、町並みの変貌と
江沢民国家主席が「中国と韓国の関係は今や後戻りできないほど進展している」と、金総書記に伝えたことが
大きな原因の一つに考えられるという 
北朝鮮から戻った現代建設の金潤圭社長は、金剛山一帯を朝鮮民主主義人民共和国の特別経済地域に
指定することになったと言っていた。

以上のことから考えて、今回の統一に向けての南北共同宣言は、北側の変化次第で大きく進展するであろう。

在日同朋社会も今日まで本国情勢に左右され、分裂と対立を繰り返してきた。今後在日の我々も、
民団・朝鮮総連も異郷の地で不毛のイデオロギー論争に左右された愚かな対立に終止符を打つべきだ。

両陣営が節度ある交流を重ね、日本社会から評価され、祖国の平和統一の牽引車的役割を果たすこともできるはずだ。
そのためには、朝総連の人たちが、北の変化の有無にかかわらず、北政権の政策に無条件支持を示すのはうなずけない。
今後の勇気ある覚醒が望まれる。(政治経済の光と影から)