第6回 「スクリーントーン」


スクリーントーン ○月●日 天気 晴ときどき曇

「むーう……」
 ペン入れが終わった絵を見て、しばし。全体のバランスやら細部のチェックをしながらふと、悩む。これは、本当に自分が描きたかったものなのかどうか……
「……」
 結論。ボツ……

 自分で描いた絵が気に入らないときはままある。上手い下手はともかくとして(んな事を言っていたらいつまで経っても描けはしない)、何となく気に入らない、最初に描こうと思ったものとあまりに違う、そんな時だ。
 もちろん、完璧なものが出来るなどとは思いはしない。自分の腕の限界ならば話は別だ。でも、後悔が残るような絵は描きたくない。そんなものを人に見せたいとは思わないし、見る方だってそんなものは見たくはないだろう。
 とはいえ、そうほいほいとボツを出すわけにもいかない。もう一枚描き直すか、あるいはこのまま細部の変更だけで乗り切るか。このあたりのさじ加減が難しい。締切が近ければなおさらだ。
 思うに、ここぞという時に自らボツを出せるようになれれば一人前ではないだろうか。自分の描いたものなら、どんなモノでも愛着はある。でもその愛着を優先して、自分でさえ気に入らない絵を他人様に見せているようでは絵描きとしての自覚が足りない、と私は思う(言っておくけど、自分に対してそう思っているだけで、他の人がどうこうとか言ってるわけじゃありませんからね。念の為)。それでは「所詮アマチュア」ではないか。
 時には心を鬼にして、自分の描いたものをボツにする。本当はびりっと破いてしまうべきなんだろうが、そこが私の未練がましいところでついつい机の奥にそっとしまいこんでしまう。後にこれを見つけた時、陽の目を見ることなく古びていく過去の自分の絵柄に、私は一人静かに涙する。

 ……と気取ってみたものの、現実に没を出したときはそんな感傷に浸っている場合ではない。待っているのは修羅場だけ。没原稿と山ほどの後悔を残し、私は今日も締切に向かって突っ走るのであった……

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