第5回 「トランサー」


トランサー ○月●日 天気 雨

 その時、私は発狂寸前であった。
「ぐあーーーーー!! 何故くっつかんのやぁ!!!」
 ……スクリーントーンの調子が悪いのだ。何度原稿に押しつけてもまったく定着しない。ぺりぺりぺり……という音とともにはがれていくのである。
 ……締切は(またもや)目の前、今更新しいのを買ってくる時間はない。大体一枚二枚の話じゃないのだ。マクソンのトーンが片っ端からコレである。全部買う金もない。
「ぐあーーーーー!!」
 私は悶絶した。

 スクリーントーンについて、ちょっとだけ説明をしておく必要がある(イラストを描く人は知ってるだろうけど、普通の人はスクリーントーンがどういうものかを知らない事の方が多い)。トーンというのは裏側に粘着性の接着剤、表にパターンが印刷されたフィルムシートである。これを必要なだけデザインナイフなどで切り抜き、ナイフの後ろやペン軸の反対側、トランサーなどで丁寧にこすりつける。そうすると裏側の接着剤が原稿にはりつき、トーンが思ったところに定着するのだ。
 ……ところが定着しない。二度三度、頭を掻きむしって気がついた。トーンの裏側、接着剤のある面にホコリがうっすら張り付いているのが……
 使っているときに、机の上の消しゴムかすでも拾ってしまったのだろうか……情けないと言えば余りに情けない。普段の散らかし放題な生活がこんなところで裏目に出てしまった……

 その後原稿はどうなったか。……固形糊ではがれたところをぺたぺたはって何とか繕った。ほんとに情けない……

教訓・「机の上は綺麗にしよう」


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