第1回 「シャーペン」


○月●日 天気 晴

 チリリリリン……
「はい江藤です。あ、MANAさん。どうでした? 新婚旅行は」
『どうでした、じゃないよ。19話のカットがまだ来ないのはどーいうことだね?』
「いやあ、今月結構テストが多かったもんで……大体全部下書きが終わったところです。四日ほどで仕上がると思いますんで、あとちょっとだけ待ってて下さい」
『本当にあと四日なんだね? じゃあ頼んだよ』チン……
 …ウソである。「シェラ」はいまだ一枚も手をつけてなどいない…
 チリリリリン……
「はい江藤です。あ、さ○まさん。なんですか?」
『何ですかじゃねーだろ。お前、いつになったらナイ○マスターの表紙送ってくれるんだよ』
「いやあ、今月ちょっと苦しいもんで、バイトたくさん入れちゃって……えとですね、ペン入れまでは終わってます。あとはトーンと仕上げがちょこっと」
『そう? とにかく急いでよ』チン……
 …実は下書きを終えた段階で気力が失せて、その後一週間ほったらかしにしてあるのだ…
 チリリリリン……
「はい江藤です。あ、う○たさん。お久しぶり」
『……えとーさーん……うるうるうる……カットまだ〜?』
「あははははははははははははは……」
『締めきり、一週間過ぎてますよぉ〜』
「いやその、本当にあとちょっとです、ホント!」
 …今、ペン入れしているところなのである…


○月●日 天気 曇ときどき晴

 何となく気が乗らない。
 こういう時は何を描いてもダメ。どんなに時間をかけても、すべて気に入らない。二度三度と失敗しては頭をぐちゃぐちゃかきむしる。しまいには原稿をごみばこに突っ込んで、気分転換をはかる。
 一番よくやるのは、やっぱり自分の好きなコミックを読むことである。うまい絵を見ているうちに、自分もそんな絵が描けるような気分になってくる。
「……ふふふふふ……」気がつくと二時間は軽く過ぎている。よし、と思って描いた絵は、いままで以上にひどい。
「なんでやっっっ!!」頭にきて今度は自分の「過去の汚点」を引っ張り出す。人にはあまり見せたくないが、昔の絵を見ていると「ああ、自分はこんなのよりもっとましな絵を描いているんだなぁ」という気分になってくる。はっきりいって不毛だ。
 自己満足が頂点に達したときに、すばやくペンを手にとり一気に描き上げる。……やっぱり下手だ。しかもなぜか昔の絵に後退したような気がする……
「ええいっ、もうしらん!!」ついには何も考えずに適当に描く。と、そういう時に限って結構うまくいく。あの苦労は何だったんだ……いつもの不条理に悩みつつ、ノルマをこなしてないのにも関わらず布団に入る。すぐに夜が明け、ろくに眠れないまま翌朝を迎え……そして机の上の原稿を見て愕然とする。
「なんだこの落書きは!?」あれは寝ぼけ頭の見せた幻だったのか……そこにあるのは夕べ自分が描いたと思っていたものよりもはるかにひどいモノだった……
結局原稿は廃棄処分の憂き目にあう……

第2回



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