八海山(新潟県)

 2009年10月に、趣味の仲間が赤城山麓に集まって一晩語り明かそうというということになった。会場は仲間の別荘だが、集合時刻が遅いので、その前に一山登ってこようと、八海山に出かけた。

第一日目(晴れ)
 上野を一番の新幹線で発ち、六日町で8:26のバスに乗った。乗客はほとんどがハイキング客で20人ぐらい。天気はいいのだが、残念ながら高い山の頂はどこも雲がかかっている。予定では屏風岩コースを登るつもりだったが、先日の台風18号で沢筋は荒れているだろうから、大事をとってロープウエイ経由の一般コースで行くことにして、始点のロープウエイ山麓駅に行った。

 9:20発のロープウエイで山頂駅へ。駅を出ると見晴らしの良いテラスがあり椅子が備えられている。NHK大河ドラマ天地人の主人公「直江兼継」が麓を見下ろしている写真も飾ってある(写真02)。ここで一服して準備を整え、9:35出発。

写真02 大河ドラマ「天地人」で直江兼続が麓を見下ろしていた場所

 最初はあまり急勾配ではない登山道を女人堂まで登る。道はかなりぬかるんでいてルートを選ぶのに苦労する。途中でこれから目指す「八つ峰」が良く見えるところがあった(写真04)。下ってきた人に聞くと昨日まで雨だったそうだ。連休をはずしたのが正解だった。しばしの急登で10:35に女人堂についた。女人堂の前には信仰登山の霊場らしく碑が建っていた(写真06)。

    写真04 女人堂への途中で八つ峰が良く見える

    写真06 女人堂の前には八海山大神の石碑がある

 女人堂にはしっかりした避難小屋が建っていた。しかしトイレがくさいので、ここには泊まらない方が良さそうだ。見上げると最初のピーク薬師岳がかなりの急坂の上にそびえている。まだ1時間半から2時間かかるだろう。上のほうは紅葉もちょうど良い。昼食をとっていたら、どこかから、ほら貝の音が聞こえてきた。修験道の山なのでどこかに山伏がいるのかもしれない。11:00出発。

 覚悟して急坂を登る。祓川という冷たい水が流れている水場を横切る(写真08)。尾根の上なのに水が流れているとは驚いた。その上は、ほんのわずかな窪みになっている。この程度の窪みで流れるほどの水が湧き出すとは、八海山は水が豊富なのか、それとも昨日までの雨のせいか。

      写真08 尾根の上を水が流れる祓川

 あいかわらずハイカーが多い。家族連れも多く、ほとんどが登山は素人という感じだ。鎖場も1~2箇所あったが、登り優先のマナーなどお構いなしに下ってくる。釣鐘と烏天狗の像が現れたら(写真10)、あっけなく薬師岳頂上に着いた。女人堂から1時間だった。すぐ目の前に千本檜小屋がある。その後ろには八ツ峰の最初の峰(地蔵岳)がそびえている(写真12)。5分ほどで小屋に着き、今晩泊まる旨を伝え、大きなザックからアタックザックに防寒具や食料を移した。

      写真10 薬師岳頂上の烏天狗と釣鐘

 写真12 薬師岳頂上と地蔵岳(八つ峰の一つ)と千本檜小屋

 12:35、いよいよ八ツ峰に向けて出発。5分ほどで八ツ峰に登る分岐に着いた。それから先は数珠繋ぎでハイカーが登る順番を待っている。八ツ峰の上は狭いので、ここは下る人優先だ。先日来の雨で岩場も濡れていて滑りやすい。降りてくる人をやり過ごして岩稜の上に出た。本来なら越後駒が見えるはずなのに雲に閉ざされている。

 まず左へ地蔵岳に行く。NHKドラマのイントロで直江兼継が立っている岩峰は地蔵岳とのこと。お地蔵さんが3体ほど立っていた(写真14)。次に不動岳に順番待ちで登る。不動の頂上では20人ほどの八海講がさかんにお祈りと儀式をしている(写真16)。狭い頂に20人もつめているので、一般登山者は歩く余地がない。八海山講の写真を撮りながら、その脇の道のないところをすり抜ける。

       写真14 地蔵岳頂上のお地蔵様

  写真16 不動岳の頂上では八海講の人たちが行をしていた

 前方を見ると魔利支天が鋭い岩峰を尖らせている。その後ろにほとんど重なるように大日が見える(写真18)。あいにく稜線にだけ雲がかかりクリアーな眺めではないが、登高欲がそそられる。右側足元を見下ろすと屏風岩にはさまれた清滝沢が深くきれ落ち、屏風尾根が鋭く突き出ている(写真20)。予定ではこの尾根を登ることにしていたので、一般ルートにして命拾いしたと胸をなでおろした。

      写真18 不動より摩利支天を望む

写真20 東南面は清滝沢が切れ込み屏風尾根が鋭く突き出している 

 不動を越すと一般登山者はずっと少なくなった。魔利支天までの稜線に目をやると、七曜・白河・釈迦の各峰をたどるルートに登山者が点々と見える(写真22)。この間も適当に鎖場があるのだが、稜線まで潅木に囲まれているので、足元が見えず、そんなに恐怖感は湧かない。ワイナピチュの登りが怖くなかったのと同じだ。鎖につかまって、垂直な壁・急斜面のトラバースなどを楽しみながら、迂回路へのエスケープルートを右に見送ると、いよいよ魔利支天の登りになった。真下に迂回路を行く登山者が見える。

     写真22 摩利支天の稜線に取り付く登山者

 ここは標高差50mぐらいあるので、結構な威圧感で魔利支天がそびえている。梯子や鎖場にはそれぞれ人が取り付いているのが見える。まず5mぐらいの鉄梯子。次に一番長い岩稜上の鎖場。それを越すと潅木の中を歩いて頂上。ルート途中に泥が出ているところもある。泥が前日の雨で濡れているので靴底が濡れてしまい、鎖場で滑ってヒヤットした箇所もあった。魔利支天の頂上で出会った人に自分の写真を撮ってもらった。やっと自分の写真が撮れた(写真23)。

        写真23 摩利支天の頂上にて

 魔利支天から少し下って、いよいよ八ツ峰最高峰の大日の登りになった。たいして難しいところもなく、神仏や鉄の鳥居・剣などが散乱している大日の頂上に出た(写真24)。天照大神が鎮座する小さな岩の祠もあった。ここで一休みしていたら小学生と思われる男の子が一人で登ってきたのにはびっくりした。すぐ後から親が登ってきたが、この年から岩場のぼりをするようなら猛者になるだろう。あいにく雲に囲まれあまり良い眺めではない。とくに越後駒方面はいつも雲がついているので、駒の頂上はとうとう見えなかった。

写真24 大日岳(八つ峰の最後)の頂上とブロンズの仏像(後ろ向き)

 大日を越えてもなおナイフリッジが続いていたが(写真25)、直に迂回路との合流点についた。岩壁に「危険、ここから先は鎖場の連続、非常に危険です」との看板が埋め込まれていた。まだ時間も早いので入道岳(1778m)まで往復することにした。もう岩場はなく単なる山道を登ってゆく。人は誰もいない。途中で一人とすれ違っただけ。一瞬雲が切れて中の岳が見えた。紅葉の絨毯に囲まれて美しかった。

   写真25 大日の下り(まだナイフリッジが続いている)

 入道岳の頂上には「丸岳」という石碑が立っているだけ(写真26)。潅木に囲まれた登山道を飛ばして下っていたら、雉らしい大きな鳥が急にバタバタというけたたましい音を立てて飛び立ったのでびっくりした。

          写真26 入道岳の頂上

 迂回路との合流点にもどり、今度は迂回路を経由して千本檜小屋に向かった。最初は梯子4段が連続する急な下り(写真28)。最近付け替えたらしく、まだ熊笹が生い茂って悪い道だ。これでも一般コースなのかという感じ。それを下りきると水平な迂回路(と言ってもかなりアップダウンがある)に入った。右側が八ツ峰の急な岩壁なので、ヘツリが続く(写真30)。中には鎖もないヘツリがあるので、ギブアップする一般ハイカーもいるのではないか。

  写真28 う回路への下りは梯子4本の連続

       写真30 う回路はヘツリの連続

 明日下る予定の新開道の分岐にでた。偵察のため新開道に少し入ってみた。最初は鎖場が連続し、大きな荷物を背負っていたら怖そう(写真32)。5分ほど下って戻った。岩場のトラバースを何回も繰り返して、4時にようやく千本檜小屋についた(写真34)。もう、当日客も宿泊客もだれもいなかった。今夜は小屋番(写真36)と当方だけ。

写真32 新開道を少し下ってみたが鎖場の連続

      写真34 無事に千本檜小屋に着いた

 食事ができたというので、5時ごろには夕食が始まった。少し早すぎる感じだがまあ仕方ないか。外はもう暗くなっていた。内容は、ご飯・味噌汁・山菜の漬物・ナスの炒め物だけの質素なものだった。一泊二食つきで6500円だからこんなものか。水は天水を沸かして飲んでいた。

 ちょうどその時電話が入った。小屋番のやりとりを聞いていたら、どうやら次のようなしだい。
(客)山小屋に自動車のキーと免許証を入れたアノラックを忘れてきたので車が動かせない。今から取りに行く。
(小屋番)もう山道は暗いので今から登るのは危険だ。明日下る人がいるので運んでもらえるかどうか聞いてみる。
(小屋番)(当方に向かって)お客さん、明日、このアノラックをロープウエイの駅まで届けてくれるか。

 車が動かせなくては家に帰ることもできないだろう。客は当方一人しかいないので「いやだ」とは言いづらく、「はい、OKです」と答えた。明日は新開道を下る予定だったが、早く届けてあげないと相手が困るだろうから、来たときと同じ道を下ることにした。

 19時ごろまでストーブに当たりながら小屋番(写真36)と四方山話に花が咲いた。結構いろいろな経験をしてきた人だった。地元の各集落に電話を引いたときの話。中の岳の避難小屋を作ったときの話。八海山周辺の登山道の整備の話などなど。

        写真36 千本檜小屋の小屋番

 当方が「八海山の迂回路は、迂回路とは言っても、結構悪いですね」といったら、一瞬、顔がキュットなり、迂回路整備の苦労話が延々と続いた。当方は迂回路とは言っても結構危険ですねという意味で言ったのだが、道の整備が悪いという意味にとったようだ。こういう登山道の整備も県の金でやっているようだ。もちろん地元の観光協会も応分の負担をしているのだろうが。

 布団は押入れから好きなだけ出して自分で敷いてくれとのこと。防寒具として厚手の下着とゴアのつなぎをもってきたので、それを着て、布団は上下一枚で済ませた。50人は寝られるという広い部屋の真ん中に一人で寝た。明かりは石油ランプ1つ。朝が早かったのですぐ寝付けた。

二日目(晴れ)
 今日は快晴。6:00ごろ食事を済ませて不動岳まで往復して景色を見ることにした。雲一つ無い快晴で、人っ子一人いない頂上の景色は最高だった(写真38、40)。昨日はとうとう見えなかった越後駒が良く見える。越後駒から八海山までの三山めぐりの稜線もバッチリだ。逆光になるので写真がうまく撮れない。六日町付近は雲海に覆われている。遠く米山さんも見える。八海山のほうが高いので、米山の上に日本海を行く大型船の船影が見えるとのことだが、今日は少し霞んでいるので見えない。

   写真38 地蔵岳から薬師岳、足元の小屋は千本檜小屋

       写真40 摩利支天の越後駒側斜面

 届けるべきアノラックは小屋番が紐で団子のように縛ってくれたので、そのままザックに入れた。小屋を7:00に出発してせっせと下る。岩場やぬかるみが多いのであまりスピードが出せない。女人堂まで一時間かかった。山頂駅までの比較的緩やかな道を下ってゆくと、一番のロープウエイできたハイキング客とであった。もう駅は近いな。駅近くの展望台に登って景色を楽しんでから9:20発のロープウエイに乗った(写真42)。

        写真42 八海山のロープウエイ

 下の駅でアノラックを置き忘れた人が待っていた。感謝感激という様子で、「何かお礼がしたいから是非住所を聞かせてくれ」とのこと。「下ってきたついでなのでそれには及びませんよ」といって、六日町駅まで車に乗せてもらうことにした。

 予定したバスより1時間も早いので時間が余ってしまった。しかたないので駅近くの朝日湯なる公衆浴場に入った。公衆浴場と言っても本当の温泉だ。風呂を出た後、火照った体をさましながら駅までゆっくり歩いたら、「天地人博」なるものをやっていた。ここ六日町は主人公の直江兼継の出生地なので、大河ドラマにあやかって地域興しに精を出している。六日町駅の跨線橋から八海山の八ツ峰が見えた。11:26発の鈍行で赤城合宿の下車駅:敷島に向かった。

八海山コースタイム
ロープウエイ山頂駅9:35→10:35女人堂11:10→薬師岳11:52→12:00千本檜小屋12:30→14:00大日岳14:15→14:35丸岳(入道岳)14:50→迂回路入口15:04→16:00千本檜小屋
千本檜小屋7:00→7:50女人堂8:00→9:00山頂駅

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