Seuman MacNeill が名著“PIOBAIREACHD”(BBC Publications)の中で「これまでバグパイプのために書かれた最も素晴しい曲の内の一つ」と書いている、“Lament for Patrick Og MacCrimmon”について説明します。
※ 右の楽譜をクリックすると大きなファイル(作成 by bugpiper さん)にリンクしています。
この曲は、マクリモン・パイパーたちの中でも最も卓越したパイパー、ティーチャーとして高名な Patrick Og MacCrimmon(1645〜1730)の一番弟子であった盲目のパイパー、Iain Dall MacKay of Gailoch(1656〜1754)が作曲したものです。
スコットランドでは“The Blind Piper”というだけで Iain Dall MacKay のことをさす程、パイパーそしてピーブロック作曲者として有名な存在であるこの人は、その98年の長い生涯の間に多くの素晴しいピーブロックを作曲しています。
そして、さらにすごいのは、彼はピーブロックだけでなく、詩や歌でもいくつもの傑作を残しているのです。実は当時のハイランドのクラン社会においては、パイパーとバルド(Bard/吟遊詩人)の関係というのは余り良いものではなく、Iain Dall のようなケースは非常に希なことだったということです。Iain Dall はパイパーとバルドの両方をこなしたほとんど唯一の存在なのです。
ちなみにかの“Desperate Battle of the Birds”を作曲した Angus MacKay of Gailoch(アンガス・マッカイ/1726〜1805)はこの Iain Dall の息子です。
(※パイパーとしての MacKay にはGailoch地方 とRassay地方を基盤とする2つの有名な家系があり、ファーストネームが同じ人物もいたりするので、表記するときは混乱しないように、名前の後にそれぞれの地方の名前を付けます。)
Patrick Og MacCrimmmon と Iain Dall MacKay のパイパーとしての素晴らしさ、そして2人の強いきづなで結ばれた師弟関係を伝える一つのエピソードがあります。
当時、各々のクランの中でパイパーの役目はとても重要であり、同時にその地位は非常に高いものでした。ですから、チーフテンたちは多くの費用をかけても、Skye 島のはずれの Boreraig という地にあった MacCrimmon の College of Piping にお抱えのパイパーを送り込み、立派なパイパーに育ててもらうのを常としていました。
あるとき Sir Alexander MacDonald というチーフテンが Charles MacArther というパイパーを、Patrick Og の下で修行させていました。数年の修行を終えた Charles MacArther を連れて帰る道すがら、 Sir Alexander MacDonald は Patrick Og とともに Iain Dall の家を訪ねました。
Sir Alexander MacDonald は修行を終えた自分のパイパーについて公正な評価をしてもらうよい機会だと思い、Patrick Og が一緒だということは内緒にしたまま、Iain Dall に対して「Patrick Og のところで修行してきた2人のパイパーの腕を聴いてほしい」と頼みました。
そして、最初に Charles MacArther が演奏しました。Iain Dall は「彼はとても良いパイパーだ。きっとパイパーとして立派に役目を果たすだろう」と言いました。
そして今度は、2人目のパイパーとして Patrick Og が演奏しました。Iain Dall はその演奏を聴いては「あなたはこんな方法で私をテストする必要はない。私は確かに肉体の目は失っているが、物事を理解する心の目は失っていない。たとえ世界中のパイパーが私の前で演奏したとしても、私はPatrick Og の演奏を聞き分けることができる。」と言ったということなのです。
さて、肝心のこの素晴らしいラメント自体の誕生にまつわる興味深いエピソードは次のとおりです。
あるとき、「Patrick Og が死亡した」という悲報を聞いた Iain Dall は悲しみの中、悲哀に満ちたこの名曲を作りました。しかし、後日、実はこの悲しい知らせは真実ではなかったということがわかりました。そこで、Iain Dall は Boreraig の Parick Og のところへ行き、師匠を前にしてこの曲を演奏したのです。そして、Iain Dall のこの素晴らしい曲を聴いた Parick Og は「生きている間に自分のラメントを演奏できるパイパーは、そんなにいないだろう。」と言って、この曲を大層気に入り、以後は自分のお気に入りの曲としてたびたび演奏したということなのです。
この曲はGABDEのペンタトニックです。同じペンタトニックでもキーノートによってかなり異なった雰囲気になりますが、特にこの曲のようにGがキーの曲は独特な雰囲気があるので私は大変好きです。シェーマスによるとそれは、他の音とは少し違った雰囲気を持つGの音とドローンの音(A)とによって生じる雰囲気だということです。
全体を通して深い悲しみの表現に満ちているこの曲ですが、特にウルラールの第2小節目を初めとしてたびたび出てくる lowG から highG への the throws to G( keyがGのラメントによくでてくるパターン)、つまりチャンターの最も低い音からいきなり1オクターブ上に飛ぶこの音が、私にはまるで作者の慟哭の悲鳴のように聴こえて、この部分だけでもラメントの雰囲気を強く感じてしまいます。
Seumas によると「最高のテクニックを駆使する必要があるこのウルラールの演奏の中でも、この the throws to HighG には、特に完ぺきな正確さが求められる」ということです。
ウルラールはその一部を少しアレンジしたダブリングとしてほんの少し早いテンポで演奏されたあとは、バリエイション1とそのダブリングに入ります。Seumas は、この2つのメロディーラインを「パイプミュージックの中で最も美しい2つのメロディーライン」とし、「他のいくつかのバリエイションでこれらに肩を並べるものもあるが、これらを越すものは無い。」と、書いています。
Seumas に言われるまでもなく、このバリエイションは本当に印象的なメロディーです。特に繰り返し出てくる HighG の音は、敬愛すべき師を失ったイアイン・ダルの癒すことのできない嘆きの感情を表して余りあります。
この曲について Seumas が最後に締めくくっている言葉が、まさにこの曲に対する私の印象を言い表しているものなので紹介します。
「この曲は初心者にとっては簡単には理解しにくいかもしれません。しかし、ひとたびこの曲の良さが分かった時には、その人にとってピーブロックの新たな世界が開けてくるでしょう。」
※この曲の音源の一つがここでフリーダウンロードできます。