パイパー森の音のある暮らし《2008年3月》
2008/3/2
(日)

タリスカー18年

 巷のお酒の席でウイスキー離れが顕著なようです。
 しかし、私が成人してお酒の席に(いやいやながら)付き合わなくてはならなくなった1970年代の酒席では、乾杯のビールの後のメインのお酒と言えば日本酒&ウイスキーの水割りというのが定番でした。
 酒席の片隅には必ずウイスキーのボトル(多くの場合はあのダルマ=サントリー・オールド)が氷のバレルと水の入ったピッチャーと共に置かれました。そして、後輩&女性は先輩&男性の好みに合わせて、ウイスキーを底の方にちょこっと入れたグラスに氷をドカドカ入れ、水を加えてキンキンに冷えた「ウイスキーの水割り」を作るのが常でした。
 私は、日本酒と水割りウイスキーの両方とも苦手でした。日本酒はあのお燗されたお酒から立ち上るホンワリとした独特の香りが、そして、ウイスキーは冷たさ&水っぽさが…。

 そんな状況下で私が酒席をこなす処世術(と言う程のことではありませんが…)は、真っ赤な顔で「もう酔っ払ちゃいました」って風を装って、ビールをちびりちびりやりながら何とか時間をやり過ごすということでした。
 後日、ウイスキーの水割りが焼酎の○○割りに取って替わられる時代になると、ワインも酒席に上がる様になり、乾杯のビールの後はワインをちびりちびりってこともありました。
 つまり、このようなお酒の本当の味を楽しむということとはほど遠い、単にアルコールで酔っぱらうという事を目的とした酒席をいくら経験しても、私はいつまでたってもお酒が好きになれないままでした。


 そんな私が、純粋に「このお酒、美味しいな〜?」っと思うことが稀にあります。
 その一つは、あちこちにアイリッシュ・パブが出来たお陰で日本でも気軽に味わうことが出来る様になったギネスのビールです。ただし、瓶&缶入りはダメ。ちゃんとサーバーから丁寧に注がれたあのクリーミーな泡が盛りあがったモノに限ります。人によっては「泥水」と言って忌み嫌う、あの焦げた様な濃厚な味が私はたまらなく好きです。

 そして、もう一つのお酒は、スカイ島唯一のシングル・モルト・ウイスキーであるタリスカーです。このお酒に辿り着いた経緯は音のある暮らし2007年5月に書いたとおり。


 さて、今朝、毎週日曜日の日経新聞に挟み込まれている大判のビジュアル・ペーパー“THE NIKKEI MAGAZINE”をめくっていると、いきなりそのタリスカーの全面広告が載っていてびっくり。
 寒々とした暗い海から立ち上がった小高い山が霧に煙る「いかにもスコットランド!」という風情の写真をバックに、私の愛飲する(…って、1年以上前に購入した1本目がまだ終わっていないんですが…。)タリスカー10年のボトルがド〜ンと写っている。
キャチコピー曰く…、

なにも育たない土地で、
育っていたもの。
不思議だ。
麦もろくに生えやしない、最果ての島に、
なんで蒸留所を造る必要があったんだ。
スカイ島を初めて訪れる人は、そう思う。
この島でしか育たないものが、ひとつある。
孤高の精神だ。
荒れ狂う風雨がこの島を、歴史から隔てて来た。
まじらない、屈しない、島民の精神が、
流行に惑わされない、
唯一無二の味を生み出したんだ。
のどを通り越し、胸の中にしみいる熱。
口から鼻腔に抜けていく、スモーク。
火と煙のシングルモルト、タリスカー。

 いや〜、カッコイイ!
 …で、ふと反対側のページを見ると、ある著名な写真家がこの広告写真を撮影した際のいきさつが載っていました。つまり、ルポ風記事と合わせた2面広告って訳。

 そのルポの中では、最終的に採用されたその写真の他に、その写真家がこの広告の為に撮り下ろした4枚の写真が掲載されています。それらは全て同じアングルの写真なのですが、それぞれ見事に風情が異なります。
 この撮影のためにスカイ島に5日間滞在したというこの写真家は
「太陽が出たと思ったら、次の瞬間には雲が出て、霧が立ちこめ、雨が降り、嵐になる。そしてまた太陽が顔を出す。スカイ島の天気はこの繰り返しでした。スコットランドの天候はよく『一日のうちに四季がある』と例えられますが、スカイ島の天候は、それをもっと劇的にした感じです。」と語ります。
 さらにルポ風の宣伝文は、最後をこんな風に締めくくります。
 
「舌の上で爆発するような」「力強くどこまでも男性的」「ピートトとコショウの強烈なフレイバー」「海と火山を感じる」など、タリスカーを形容する言葉は、ほかのどのシングルモルトとも明らかに異なる。170年におよぶ伝統の製法と職人の技、そしてスカイ島という自然環境が育て上げた琥珀色の一滴、それがタリスカーだ。この豊かな個性は、一度体験したら忘れられないだろう。

 う〜ん、お酒にはからっきしダメだった私が初めて「本当に美味しい!」と感じて虜になってしまったウイスキーは、こんなにも個性的でディープなシングル・モルトだったのですね。


 さて、その広告ページの一番下にはご他分にもれず広告主“MHD ディアジオ モエ ヘネシー”が運営するサイト SINGLEMALT.JP の URL が書いてありました。
 タリスカーも含めて幾つものシングル・モルトが紹介されたそのトップページからシングルモルトニュースのページに目を通すと、またまた何度もタリスカーという名前が出てきます。
 どうやら、3年程前にタリスカー蒸留所では、これまでの10年物に加えて18年物を定番化したということ(新発売記念 テイスティングイベント)。そして、そのタリスカー18年は2006年2007年と2つのコンクールで相次いで世界最優秀の称号を得たということです。(2006年のコンクールでは、10年物も部門賞受賞とのこと。)

 男性的で荒々しいというタリスカー10年に比べて、さらに年数を重ねたタリスカー18年について、コンクールの審査員の一人は「エレガントで、素晴らしいスモーキーさとかすかな甘いフルーツのとのバランスが保たれている。グラスの中と舌の上で絶えず変化し続ける。穏やかな味わいの波が押し寄せ、上等なバランスとクラシックなペッパーを感じるフィニッシュ。とぎれなくつづいていく」とコメントしています。

 この二つの年代物の対比を私なりにピーブロックの世界に置き換えてみると、タリスカー10年が Donald Mor と彼の作品、そして、タリスカー18年は Patrick Mor と彼の作品、という風にバッチリ当てはまるような気がします。


 はてさて、それではこの次は「なにも育たない土地」スカイ島が育てた二つの至宝、マクリモン最高のコンポーザーである Patrick Mor の最高傑作“Lament for the Children”を聴きながら、世界最高のシングル・モルト・ウイスキー、タリスカー18年を取り寄せてじっくりと味わってみることにしましょう。
 おっと、その前に現代のマクリモン・パイパーである
Euan MacCrimmon が 2006年のグレンフィディック・チャンピオンシップで演奏した“Mrs MacLeod of Tallisker's Salute”の音源でも聴きながら、まだ残っているタリスカー10年を嗜むとしますか。

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