パイパー森の音のある暮らし《2007年9月》
2007/9/23
(日)

Allan MacDonald の“Dastirum”他

 非常に奇特なあの Ken Eller さんがオリジナル音源を惜し気も無く次々と提供してくれる“The Captain's Corner”を筆頭に、週替わりのプログラムの中でほぼ毎週貴重なピーブロック音源がゲットできる BBC Radio Scotland の“Pipeline”、そして、月替わりのプログラムに必ず1つはピーブロック音源が入っている“COP Radio”など、この1、2年、ピーブロックの音源をオンラインでゲットできる機会が飛躍的に増えるに従い、CD フォームのアルバムを買う意欲が徐々に薄れています。
 ピーブロックが1曲だけ入っているアルバムで未購入のものがまだ数枚あるのですが、それらの曲はどれも既に他の音源を持っている曲ばかりなので、以前のように
「世に出回っているピーブロック音源は何が何でも一つ残らずゲットするんだ〜っ!」と言う程に熱を入れて確保する気が起きないのです。

 しかし、そうは言っても全曲ピーブロックというアルバムについては話は全く別。躊躇すること無く「即購入!」です。


 実はここしばらく、そのようなアルバムのリリースが少なかったのですが、夏前に例のマスターズの Vol.9 がリリースされているので、なにかのついでにいずれ CoP のオンラインショップからでも入手しようと思っていました。

 ところが、先日届いた最新号の“Piping Today”のアルバム・レビューのコーナーに、このマスターズイのアルバムと並んで Allan MacDonald “Dastirum”のレビューが載っていました。また、6月の“Pipeline”ではこのアルバムからの音源が2週続けてオンエアされたり、また、同じ頃にボブさんのフォーラムでもこのアルバムについてのトピが賑わっていました。

 実は、このアルバムが、あの Barnaby Brown “Siubhal”レーベルからリリースのアナウンスされたのはもうかなり以前のこと。挙げ句のはてにちょうど一年前の6月号の“Piping Today”では、「もう間もなくリリース!」ということで、当人へのインタビューやアルバムのライナーノーツも引用した記事が載っていました。

 ところが、現実的には例によっていつもの Barnaby Brown ペースで(前作である Donald MacPherson“Living Legend”の場合はアナウンスから実際のリリースまでには2年位掛かりました。)いつまでたっても現実のリリースの報告がありません。ですから、6月に“Pipeline”でこのアルバムからの音源がオンエアされたときには正直びっくりしました。…で、その時は早速、Siubhal のサイトを確認したのですが、そこでは相変わらず“Coming Next”となったままでした。

 しかし、今回は確かにアルバム・レビューが載っているし、ボブさんのフォーラムでも既にアルバムをゲットした人の書き込みが盛んです。
 そこで、試しに NPC のオンライン・ショップを検索してみると、な〜んとちゃんとオンラインカタログに載っているではないですか。しかし、非常に紛らわしいのは、掲載されていたのが Folk のコーナーだったのです。これじゃ、ピーブロック・ファンは通常見落としますよね。

 ちなみに、未だに本家本元の Siubhal のサイトでは購入できないし、CoP のオンライン・ショップにも載っていません。
 そんなかんなで、すったもんだした末にマスターズ Vol.9 と一緒にこのアルバムが手元に届きました。


 マスターズ Vol.9 には、bugpiper さんお好みの Lady Margaret MacDonald's Salute が入っています。また、タイミング良く今年のセット・チューンに入っていて、このところの“Pipeline”で2週続けて音源ゲットできた Lament for The Duke of Hailton、チルドレン並に長い Scarce of Fishing、例のBBCビデオでお馴染みの Battle of Waternish と、シェーマスが言うところの“One of the most beautiful lament in Highland”である Lament for MacSwan of Roaig、そして、私の最初のピーブロックである MacGregor's Salute、などが入っていて、シリーズ最新作にして最も魅力的な内容になっています。

 しかし、今回のアルバムの中で私の耳を最も捉えたのは、実は私が初めて聴く(と思った) Nameless(Hihio Tro Tro)という曲です。「…と思った」というのは、音源コレクションをおさらいしてみると実はこの曲はパイプのかおり第6話で紹介した、Andrew Wright “Canntaireachd and Piobaireachd”というアルバムにも既に入っていたからです。でも、その演奏を聴いた時にはあまりピンときてなかったので、どちらにしても、この曲に開眼したという意味では、今回が最初だということです。
 バリエイション・パートも特に盛り上がるでもなく、終始たおやかなメロディー・ラインに終始するそれは一種独特な雰囲気の曲で、同様な展開をする、
Duncan MacRae of Kintail's Lament The Old Woman's Lullbay にも通じるものがあります。

 パイパー森は The Vaunting のように、グイグイグイ〜ッって盛り上がってパーッっと終わる典型的なピーブロック・パターンの曲も好きですが、一方でこの曲のように、言ってみれば「ウルラール3部構成&ノン・バリエイション」といった曲も大いに好みます。そのような曲では、そのたおやかなメロディーに身を委ねている内に次第次第にそのメロディー・ラインの展開にス〜と引き込まれて、まるで金縛りにあったようになります。
 なんて言うのでしょうか、
「メディテイション・ピーブロック」とでも名付けたらぴったり来るようなピーブロックのジャンルだと言えましょうか。おっと、元々ピーブロックって瞑想音楽ではありますが…。
 
ナレイションでは Piobaireachd Society Book の P124(Book4)に収められていると解説していましたが、調べたら Kilberry Book(No.41)にも収録されていました。


 さて、続いていよいよ Allan MacDonald “Dastirum”の69ページにも及ぶ分厚いブックレットを読みながら、このアルバムを聴き始めました。

 う〜ん、これはスゴイ! なんとも味わい深い。

 Alllan MacDonald という人は、ある種のピーブロックとその曲のベースとなったゲーリック・ソングとの関連性を解き明かし、そのようなピーブロックでは、その曲が誕生した当時は、現在演奏されているようなスタイルとは少々異なって、より、歌に近い演奏だったはずだ、という考えを追求し続けています。

 そして、ピーブロックが19世紀以降も一度も廃れることなく連綿と演奏され続けて来たことの最も大きな原動力となったパイピング・コンペティションのマイナスの側面として、1903年に設立されたピーブロック・ソサエティーが示す標準的なスコアの存在によって、コンペの場で演奏されるような曲が強く標準化されてしまったことがピーブロックのより根源的な魅力をスポイルしてしまった弊害がある、としています。

 このアルバムでは、彼のそのような持論に基づく、これまで聴いたことのないような古(いにしえ)の解釈によるピーブロックの演奏や、前奏としてのゲール語によるシンギングを聴くことができます。

 ピーブロックに馴染みの浅い、通常の演奏をあまり聴いたことが無い人が聴くと、少々混乱してしまうかもしれませんが、既にピーブロックを深く聴き込んでいる人にとっては、日頃から親しんでいる曲が、いつもとはちょっと異なった解釈で演奏されるのを聴くのは、大変興味深いのではないでしょうか。

 それに加えて Barnaby Brown の製作するアルバムの常で、このアルバムもその音質がハイレベルなのが大きなメリットです。特にドローンの音色がビンビン響いて来るので、それを聴いているだけで陶酔してしまいます。ピーブロックってのはつくづくドローンノートを味わう音楽だということを痛感させられるような素晴らしい録音です。

 あ〜と、それから例によって凝りに凝ったジャケット&ブックレットってのがまたスゴイんだな〜これが。あの Haddow の手になるケルティック模様が全面に配されたCDレーベル面の仕上げは、私の持っているCDフォームのアルバム史上最高に素敵なデザインです。部屋に飾っておくだけでも所有する価値がある!


  Allan MacDonald がこのアルバムで提示している世界は、ここ1、2世紀のピーブロック解釈に全く新たな次元を開くものであり、非常に意義深いものだと思います。
 しかし、(改めて念を押しておきますが)同時にこれはピーブロックをまだ十分に聴き込んでいない人には余りお薦めしたくありません。ピーブロック初心者にはまずは、それだけでも何ものにも換え難い程の価値がある、一般的に伝承されてきた通常のピーブロックの美しさを十分に味わって欲しいからです。このアルバムの示しているピーブロックの別の美しさについて知るのは、それからでも十分遅くはありません。
 一方で、既に十分にピーブロックを味わっている方には、ここで示されているピーブロックのもう一つの姿、よりオリジナルに近いであろう姿を味わってみることも是非お薦めしたいと思います。
Allan MacDonald によってチャンターが正に朗々と《唱い》あげるそれぞれのウルラールを聴けば、ピーブロックのさらに深淵なる世界を知ることが出来るでしょう。

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