パイパー森の音のある暮らし《2007年4月》
2007/4/25
(水)

カンタラック?

 リンク集で紹介している、Pipes | Drums のサイト。しばらくぶりに訪れようとしたらリニューアルされて URL も変わっていたので、急いでリンク集を修正しました。

 特に Dr. William Donaldson が その年の Set Tunes について古い楽譜を引用して解説したコンテンツ(PDFファイル)が満載の Music のコーナーは貴重な資料として重宝していましたが、今回あらためてリストを確認してみると、曲によっては新たに Donaldson 自身によるカンタラック・シンギングの MP3ファイルが追加されていました。
 ただし、PDFファイルと違ってこの MP3ファイルはダウンロードが出来ないようでしたので、仕方なくデフォルトで起動する QuickTime で再生した音を「超驚録」でシコシコと録音してみました。でも、手間は掛かるし、音質も悪くなるので「こりゃ、とてもやってられないな〜」ってのが実感。

 …で、あちこちいじっていたところ、QuickTime プレイヤーの右端の▽マークをクリックするとプルダウン・メニューが出てきて、なんとその中に「このファイルを保存」という項目があることに気が付きました。「なんだ、一旦 QuickTime プレイヤーにダウンロードすれば保存できるのか〜」と、勇んで保存しようとしたら、「ファイルを保存したけりゃ QuickTime Pro を買え!」と来た。金3,400円也。

 う〜ん、そういう魂胆か。

 足下を見透かされているのは悔しいけど、かといって躊躇する間も惜しいので、即断即決で購入手続きを済ませて、片っ端からエッチラオッチラ、ダウンロード&保存を繰り返しました。全てのファイルの取込みが終わった後、まとめて iTune に読み込んでタイトル等を付け、チャンチャン!

 このコーナーで解説されている曲が全部で93曲なんですが、その内の1/3を超す、なんと33曲にこの MP3 ファイルが付いていました。
 いや〜、Donaldson さん、いつの間にこんなことをしていたのでしょう。ありがたや、ありがたや…。


 さて、肝心の内容(カンタラック)ですが、それがちょっと複雑です。

 パイプでの演奏と違って、カンタラック・シンギングは、もろに歌い手の個性(声の質や節回し)が際立ちますから、聴き手の好みがはっきりと分かれるところだと思います。
 …で、Donaldson さんの歌声についての好みを問われれば、私は「好きです」と答えるでしょう。ただし、このシンギングについて「カンタラックとしてはどうか?」ということになると、率直に言って「?」ということになります。

 いつか、Matt.B.B.さんが、ケルトのマウス・ミュージックを聴いて「おっさんのうなり声というか、まじないのような声が…」と表現されていましたが、Donaldson さんのシンギングというのは、まさにそんな感じのくぐもった声のクセが強い歌い方で、どう聴いてもいつものお馴染みの曲がまるでその曲とは思えないものばかりなんですね〜。
 中にはいつも聴いているバージョンとは異なったものを歌っているものもあるのようですが、単なるバージョン違いといったことを超えて、根本的なシンギングに馴染めません。
 最も違和感があるのは、この方、ウルラールもバリエイションも殆ど変わらないテンポで歌うので、相対的にウルラールのテンポが速すぎるということです。あれではどう考えてもそれぞれのウルラールの微妙なニュアンスが伝えきれていません。

  William Donaldson さんって人は、ピーブロック研究者としては超一流の方ですが、実際の演奏者としてはどうなんでしょう? 少なくとも、一人のパイパーとして師匠からあのようなカンタラックでピーブロックを伝承されたとは到底考えられません。

 多分、Donaldson さんにとってのカンタラックは、ピーブロックの伝承ツールとしてではなくて「上機嫌のオヤジさんが風呂場で歌う鼻歌」のようなものなんではないでしょうか?

 殆ど変化の無いバリエイションを端折ること無く飽きもせずに延々と唸っている様子を聴く限りでは、それはあながち外れていないように思えます。
 まあ、そう考えれば、このシンギング自体はそれはそれとして、なかなか味わいの深い「おっさんのうなり声」だと言えましょう。

 それにしてもオヤジさん、上機嫌なのはいいのですが録音状態にももうちょっと気を使って欲しかったですね〜。
 音源を聴いていると背後で常に「キュルル、キュルル…」というような妙な音が聴こえるので、最初は「何か?」と思いましたが、どうやら、このおっさん、これらの鼻歌を安物のマイク内蔵型ポータブルカセット録音機で録音したようで、その音は多分、テープが本体内部のガイドレールかどこかを擦れている音のようです。中には音自体がユラユラ揺らいでいるような音源もあったりして、どうやらテープ走行自体がおぼつかない様な、歌い手同様にかなり年期の入った録音機のようです。

 さらに、おっさん、時々盛大に咳き込むんですが、できたら、そんな時はマイクから口を離して欲しかったんですがね〜。


 あ〜、それにしても、世界中の殆どのピーブロック愛好家が日本語を解しないってのはいいですね〜。こんな不謹慎な事をネット上でしゃ〜しゃ〜と書いちまえるんですから。

2007/4/26
(木)

木製楽器の熟成

 おっさんと言えば、オヤジ世代のロックブームは相変わらず盛んみたいですね〜。中高年向けロック雑誌の創刊もまだまだ続いている様ですし…。ちょっと前の話になってしまいますが、3月末には NHK-hi で「ギター AtoZ 」という2時間番組をやっていました。
 若かりし頃にロックやフォークに夢中になってギターを演奏していた世代が中高年にさしかかり、時間に余裕が出てきて再びギターを手にする。また、この世代は同時にお金にも余裕があるので、若い頃憧れていた有名ブランドのギターを所有することが出来る様になって、ギターショップはかってない活況を呈している。こんな世相を反映してこのような番組が製作されるのでしょうが、なかなか興味深い話が沢山紹介されていて楽しく観ることができました。

 ただ一つ、とても可哀想だと思ったのは、ギターのように愛好者人口が絶対的に多い分野では楽器の相対的な価値が高くなること、そして、ギターの腕で財を成したポップスターなどがお金に糸目を付けずに稀少な名器に手を伸ばすこともあり、名の知れた年代物のヴィンテッジ・ギターが、投機的な値段で取り引きされるような状況になってしまうということです。
 それに比べると、バグパイプは絶対的な愛好者の数が限られているし、ギタリストと違って「パイパーになってその道で財を成す」なんてことはあり得ないので、ヴィンテッジ・パイプといえども馬鹿げた値段になりようがないのが幸いです。オールドヘンダーソンやマクドゥーガルなどはギターに置き換えたら数百万、数千万円になっても不思議ではないのですが、いくらなんでもそんな話は聞いた事がありませんから。


 そんな投機的な値段が付いてしまうギターを巡る世界で、対照的な2つの話が印象的でした。

 一つは、ある日本人カントリー歌手の話。
 現在はアメリカ在住のこの方、何で財を成したのかは知りませんが、今や世界的なギター・コレクターということで、私でも知っている程に著名なカントリー・シンガーであるハンク・スノーの愛器といったような逸品など、一台数百万〜数千万のヴィンテッジ・ギターを数えきれない程所有しているそうです。
 そして、自宅に納まりきらない膨大なコレクションを保管している倉庫に案内して、曰く「有名な誰それは、ここに来るとあれやこれやの名器をとっかえひっかえ弾きまくって、日がな一日過ごして行く。」と自慢げに語っていました。
 さらに、これ見よがしにギター見本市で数百万のギターをポンと現金で買うシーンまで取材させたりして、当人はいたってご満悦でした。

 いや〜、これには無償に腹が立ちました。

 もし、あるお金持ちがストラディバリウスをその稀少価値が故に単に所有したいがために所有し、時たま楽器ケースから出しては悦に入って眺めているだけで、満足に演奏もせずに保管しているとしたら、それは世界中のクラシック愛好家から大変なひんしゅくを買うでしょう。
 名器は音を奏でてこそ名器たり得るのであって、音を奏でなくては真の価値は発揮されません。そこが、絵画や彫刻などの美術品と根本的に異なる資質です。まして、木で出来た楽器は演奏し鳴らし続けることによってこそ木質部が常に振動を受けて活き活きと輝き続けることが出来るのではないでしょうか。そうでなくては、名器もいつかは名器でなくなってしまうことでしょう。

 だからこそ、ストラディバリウスのような名器は、その時々の資産家が莫大なお金を投じてそのような名器を所有した上で、その楽器に値するような名手に(パトロンとして)貸し与えて演奏させる、というようなことも広く行なわれてきたのだと思います。名器が名手の演奏で奏でられることによって素晴らしい音楽が遍く広く人々の心に響き渡る、これこそが文化と言えるものでしょう。

 そのようなことから言って、先ほどの日本人ギター・コレクターの行為はまるで文化的な意味が欠如した、単なる成金趣味の愚劣な行為だと思います。
 そんなの個人の勝手だといってしまえばそれまでですが、何よりも可哀想だと思うのは当の楽器たちです。名手に奏でられればそれぞれが素晴らしい音を奏でることができる名器たちが、単に金持ちの所有欲の下で幽閉されている。正にこれこそ、Unjust Incarceration ( Iain Dall MacKay の作になるピーブロックの曲名)と言えるのではないでしょうか?


 一方、これと対照的な例は、ある欧米の売れっ子ロックだったかジャズのギタリスト(名前もどこの国の人だったかも忘れました)と、そのようなギタリストたちの要望に応じて特定のヴィンテッジ・ギターを探し出して来ることを職業としている人の話です。
 そのギター探索者が苦労の末にあるヴィンテッジ・ギターを探し出して来て、そのギタリストの手元に届けるシーンで、長年求めて来たそのギターを手にしたギタリストの言葉が非常に印象的なのです。
 正確にどう言ったかは忘れましたが、要は「様々な名ギタリストの手を経て来たこの楽器が僕にインスピレーションを与えてくれるんだ。こういう楽器を演奏していると、ギターの方から僕に語りかけて来る瞬間があるんだよ。」というような内容でした。興味深いことに、確かそのギターはソリッド・ボディーのエレキギターでした。

 売れっ子のギタリストがそのギターとギター探索者に支払った額は当然ながら相当な額であることは想像して余りありますが、この場合は金額の多寡とは関係なく、このギタリストのこの楽器に対する真の愛情が伝わって来ること、そして、その楽器が実際に名手の手によってこれからも盛んに奏でられるであろう、という点に於いて、前者の成金趣味のギター・コレクターの話とは根本的に異なります。


 この番組の中でもう一つ興味深いシーンがありました。
 それは、世界的に有名な日本のあるギター・メイカーの話です。このメイカーでは、出荷前のギターをある部屋に置いて熟成するのですが、その方法は、その熟成室に設置したスピーカーから大きな音量で延々と音楽を流す、つまり、ギターに音楽を聴かせるのだそうです。といってもこれは、よくある「(温室で)トマトにモーツァルトを聴かせると美味しくなる」といったマユツバなおまじないなどではなく、スピーカーから発せられる音波に新品のギターの木質部が共鳴して振動することによってそのギターの鳴りが良くなるというロジックで、言われてみればごく理にかなった考えです。

 このロジックに従うまでもなく、ハイランド・パイプもまた同じく木質系の楽器ですから、やはり演奏しつづけることによってこそ、日々熟成が進むということは同様でしょう。
 元々の造りの良さが最大の要因でしょうが、数十年から百年近く前に製作されたオールド・ヘンダーソンやマクドゥーガルが、そして、グレンが、現代の多くのパイパーに愛好されるのは、やはり長年に渡って多くのパイパーたちに演奏し続けられてきたことにより、木質のドローン・パイプが正に熟成の極に達しているからなのでしょう。


 ごくごく限られた私のパイプとの付き合いからも、このことを実感する経験がありました。

 実は Dunfion パイプのチャンターは当初、Bノートが非常に不安定でした。同じリードを使っても Naill のチャンターだとスムーズに鳴るのに、Dunfion ではむずがる。バッグのプレッシャーを微妙に加減しないと、上手く鳴ってくれませんでした。あまりに煩わしかったので、しばらくの間 Naill のチャンターに換えていた時期もありました。
 しかし、Naill のチャンターヘッドは Dunfion のチャンタ−ストックの外径より太いため、Dunfion Naill のチャンターを付けるとチャンターヘッドが不格好に目立ってしまいます。せっかく外見にも惚れ込んでいるにも関わらず、肝心の手元が見苦しくてはあまりにも悔しいので、しばらして元に戻し、我慢しながらだましだまし演奏し続けていました。
 そうしたところ、しばらくて気が付くといつの間にか Bノートの不安定さは全く影を潜め、全ての音がスムーズに鳴るようになっていました。

 先月のこのコーナーでも書いた様に、革に常に適度な湿り気を与えてしっとりとした状態に保つバッグ・メンテナンスの意図もあり、最近はバグパイプを演奏する際には、Dunfion だけでなく、 Hardie も必ず鳴らすように務めています。
 手順としては、チャンター・リード(ケーン)のウォームアップを兼ねて、まずは Hardie でピーブロックを1、2曲演奏した後、そのリードを Dunfion に装着して演奏します。
 このようにしていて気がついたのですが、Hardie のチャンターでは、ちょっと強くプレッシャーを掛けると高音部が裏返ってしまうような堅さのリードでも、Dunfion のチャンターでは裏返ることも無く、何のストレスを感じる事も無くスムーズかつ素直に鳴ってくれるのです。

 続けて吹き込むことにより木部が熟成され、このように特性がダイナミックに変わって来るということを実感できるのは、木製楽器を演奏することの何よりの面白みではないでしょうか。

|| Theme Index || Japanese Index ||