パイパー森の音のある暮らし《2006年8月》
2006/8/28
(月)

良い演奏は良い姿勢から?

 パイプのかおり第13話に加筆して紹介したように、またまた名手たちの演奏風景をビジュアルに鑑賞することが出来る DVD がリリースされました。
 パイパー森は現地での本物のコンペティションなどを観に行ったことが無いので、昨年紹介した The Band Room の DVD や、その他の幾つかの現在手元にあるビデオ映像なども含めて、これらの映像は名手たちの演奏風景を知ることのできる貴重な資料です。


 私は常々書いているとおり、ハイランド・パイプは「この世に存在する数多の楽器の中で、演奏姿勢が最も美しく凛々しい楽器」だと信じています。そして、自分としてもそのようなパイパーの凛々しい姿に対して強い憧れを持っています。

 実際、マクリモンの時代の絵画などに描かれている古(いにしえ)のパイパーの姿というのは、それがたとえ後ろ姿であったとしても、《凛》とした風情が醸し出され、得も言えぬ趣(おもむき)があるものです。(⇒音のある暮らし2003年9月

 19世紀後半以降は、名パイパーを写した写真が数多く残されていますが、それらを観ても、やはり颯爽とした良い姿勢のパイパーが目に付きます。特に、パイプのかおり第20話でも書いたとおり、往年の名パイパー Robert Reid の立ち姿は思わず目が釘付けになってしまう程に見事なものです。

 ハイランド・パイプのハードウェア、メンテナンス等について指南している CoP のカレッジ・チューター Part 2 にも、ブローパイプのくわえ方から始まって正しいパイプの構え方について丁寧な記述があり、いかに「正しく美しく清らかな姿勢」でパイプを演奏するか、ということに関して細かい注意事項が書かれています。そして、パイパーとして良くない姿勢について、“Head-twisters”“Caber-tossers”“Star-gazers”といった風に幾つかの典型例が挙げられています。細かい説明は省きますが大体言わんとすることはご理解いだだけるでしょう。


 ところが、最初に触れた Masters の DVD などを観ていて気が付いたのは「名手といえども、必ずしも良い姿勢で演奏する人ばかりじゃない。」ということです。

 確かに、Gordon WalkerIain Speirs、そして、Angus MaColl、などは《凛》とした風情が漂い、正しいパイパーの姿勢をしています。
 特に、Gordon Walker は身体は小さいにも関わらず、アゴが引けて背筋はビシッと伸び、ゆったりと伸ばした腕でチャンターを地面に垂直にホールドする姿勢の良さ、さらに、チャンターを操作する指もピンと伸びきっていて、あらゆる点からその演奏風景は正にパーフェクト! いつ見てもその凛々しい姿には惚れ惚れします。
 また、Iain Speirs はその細面の顔と、足の運びに関わらず顔面の上下位置が終始微動だにせずに、ス〜ッと水平移動する様子が、まるで能楽師が能舞台の上を摺り足で移動する様を思わせます。

 しかし、当代随一のピーブロック名手である William McCallum はアゴが上がってどちらかと言うと少々“Star-gazer”ぎみだし、Bruce Gandy は猫背とまでは言いませんが背筋がシャンとしていなくて、Caberを抱えて投げる前の“Caber-tosser”っぽいと言えなくもありません。

 そして、なんといっても極めつけは Jack Lee で、「あ〜、なんてこった」っていう姿勢です。
 カレッジ・チューターには「演奏中の顔」に関する項でやってはイケナイ事として「吹く時に頬を膨らませない」「唇の端でブローパイプくわえてはいけない」と書かれていますが、Jack Lee は律儀にもその2つを完璧に遂行してくれます。
 唇の端でブローパイプをくわえるので顔がねじれ、かつ天を仰ぐ、まるで“Head-twister & Star-gazer”のダブル・ゴールドメダリスト。さらに多分ブローパイプが長いのでしょう、首が右にねじれていてもチャンターのトップはさらに遠くにあるので、チャンタ−が斜めにホールドされていて見栄えがしません。
 また、演奏中は殆ど目をつむったままで、かつ、上背の有る人にありがちに少々猫背ぎみの姿勢で、よたよたと歩く。「目をつむっていてどうやって上手く歩けるんだろ?」と不思議に思えるんですが…。
 笑えるのは最後の一音を出し終えて演奏を終えた途端に、それまで15分以上ず〜っと曲がっていた首がシャンと真っすぐになり、会釈して壇上を去る姿です。「な〜んだ、首真っすぐなるんじゃん」って感じ。

 もう一人私が特に敬愛する Murray Henderson については、これまでも古いビデオで演奏風景を観た事がありましたが、2005年のマスターズ DVD で、改めて良く観察してみると、この方も結構ルール違反者ですね。
 Jack Lee と同じく「唇の端でブローパイプをくわえ、頬を膨らませる」んです。それも、ブローパイプをくわえた側の左側の頬だけをプーッと膨らませる。…で、つまりは少々“Head-twister”ぎみ。Jack Lee と違って背筋はピンと伸びていますが、僅かに“Star-gazer”ぎみなのに短めのブローパイプを使っているからか、チャンターのホールド位置が高く、ボトムハンドがカクッと直角に曲がっているので、 Gordon Walker のようなどっしりとしたカッコ良さに欠けます。また、以外なことに、指もまたまるまっちく曲がって演奏するんですね〜。


 しかし、ご存じのとおり、これらの人たちは誰をとってみても超一流の名パイパー。そして、姿勢がどうであれ、紡ぎ出す音楽はどれも天上の調べなのです。
 特に、Jack Lee の演奏は、当人ばかりではなく観ている者も一緒にあっちの世界に連れて行ってくれそうなまでに、演奏者自身が見事にあっちの世界に行ってしまった、何とも言えない味のある趣を醸し出しています。

 なんというのでしょうか、とどのつまりこれこそ、ピーブロックのアイロニーと言えることなのでしょう。


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