パイパー森の音のある暮らし《2006年5月》
2006/5/5
(金)

The Highland Bagpipe and its Music

 まとまって落ち着いた時間が取れないまま、いつまでたっても Bridget MacKenzie“Piping Traditions of Argyll”はなかなか読み終わらないのですが、そんな折、まだ読んでいなかったちょっと気になるタイトルの本を入手したので、“Pipigng Tradition 〜”の方は一旦中断してその本の方を読みふけってしまいました。


 その本のタイトルは“The Highland Bagpipe and its Music”。う〜ん、そのものズバリですな〜。
 そして、著者はあの“A Bibliography of Bagpipe Music”(1976)などの著者であり、そして、Joseph MacDonald “A Compleat Theory of Scot Highland Bagpipe”1760)の復刻版(1994)の編集者でもある著名なバグパイプ・ミュージックの研究者 Roderick D. Cannon とくれば、こりゃ〜見逃す訳にはいきません。

 この本が最初にリリースされたのは1988年ですが、その後の社会情勢の変化を踏まえ、最新の情報を加えて一部修正された第2版が2002年にリリースされています。
 通常このような本のリリースは、“Piping Times”を毎号きちんとチェックしていれば見逃すハズは無いのですが、実はパイパー森は1985年〜1991年までの数年間のほとんどパイプに触れなかったブランクの時期があり、その間は“Piping Times”の購読も中断していたのです。この本のリリースは、丁度その間だったのですっかり見逃していたようです。
 さらに、何故か2002年の第2版のリリースは“Piping Times”で取り上げられることもなく、また、 COP のオンライン・カタログにも掲載される事も無いままだったので、その後も相変わらずこの本の存在には気が付かないままでした。

 先日、ネットサーフィンをしている折にたまたまこの本の存在を知り、慌ててオンライン・ショップを探したところ、幸い、 NPC のオンライン・カタログにはちゃんと載っていたので早速取り寄せたという次第です。


 ハンディサイズのペーパーバックでページ数は200ページ余りと手頃なボリューム。そして、内容は次のとおりです。

Ch.1 Origins
Ch.2 The Highland Bagpipe
Ch.3 Bagpipe Music - Introductory
Ch.4 Ceol Mor
Ch.5 The Ceol Mor Tradition
Ch.6 The Origin of Piobaireachd
Ch.7 Music for Dancing
Ch.8 Music in the Army
Ch.9 Competition Music
Ch.10 Music for Pleasure
Ch.11 The Pipe Band
Ch.12 Piping Today

 限られたページ数の中でこれだけ盛り沢山の内容について言及しているので、それぞれの項目についてはそれ程深く掘り下げられている訳ではないのですが、例によって偏執狂的資料分析魔の Cannon らしく、本文中や脚注に数多くの文献や人名が出てきて、またそれらの一つ一つに年代が入っていたりするので、いつもするようにマーカーを片手に読み進んでいると、いつの間にかページがまっ黄色になっているといった具合。
 もちろん、その多くは私にとっては既知の話ばかりなので、これまでの情報を整理するという意味で有効したが、目から鱗といった新たな知識の収穫はそれ程多くは有りませんでした。


 そんな中で、一つ大いに笑えたのが、例によって Cannon ならではの詳細な脚注の中に書かれていた興味深いエピソードです。
 それは、Ch.2 The Highland Bagpipe の中、Bagpipe manufacture の項に記述されていた19世紀半ばから1980年まで続いた有名なパイプメイカー Glen の創立当時の話です。
 1827年に当初ディーラーとしてスタートした GlenThomas Glen が1840年にパイプの製作を手掛け始めてメイカーとしての一歩を踏み出しましたが、それから3年後に弟の Alexander が独立して別の工房を立ち上げました。結果として前者が John & Robert Glen として1980年まで、後者が David Glen & Sons として1950年まで続く老舗メーカーとして一世を風靡した訳です。(この辺の経過は Jeannie Campbell の“Highland Bagpipe Maker,1740 - 1960”(2001)に詳しい。)
 ここで、もともと一緒だった Thomas Alexander がたもとを分かつことになった理由というのが、その章の脚注に書かれているのですが、それが何ともふるっているのです。
 つまり、なんとこの2人はバグパイプに使うヘンプの色について意見が合わずに喧嘩別れをしたと言う事なのです。
 
曰く、Alexander はリードもジョイント部分も同じ黄色のヘンプを使用する事を主張したのに対して、Thomas はリードは黄色だが、ジョイント部分には(何と!)赤色のヘンプを使用する事を主張したという事。

 なんとも些細なことですし、どうでもいいような事だと思うのですが、結果としてその後、両者が別工房としてライバル意識を持って切磋琢磨した(?)ことが、両者ともに100年を超す歴史を築く原動力になったのだとしたら、それはそれで良かったのではないでしょうか。この本で知った新たな事実として最も興味深かったエピソードです。それにしても、赤色のヘンプなんて見たこと無いですよね〜。


 まあ、ハイランドパイプ生活の異様に長いパイパー森にしてみるとこんな紹介の仕方になってしまいますが、本質的にはこの本は初心者がハイランドパイプの全体像を把握するためには非常にためになることは請け負います。

 つまり、バグパイプ入門コースとして、バグパイプ全般のハードウェアに関しては、Anthony Bains“Bagpipes”(Oxford/1960)で学び、ハイランドパイプの主にソフトウェアに関してはこの本で学ぶといったコースを辿るのはどうでしょう。そして、その後、特にピーブロックに関してもう少しつっこんで知りたい人は Seumas MacNeill による“PIOBAIREACH”(BBC Pub./1968)に目を通すといったところでしょうか。なんといっても、ピーブロック愛好家にとって Seumas のこの本は必読です。


 さて、パイパー森としては、新しい知識のインプットという意味ではこの本は少々物足りなかったので、そのフラストレーションを解消するために、この本の中でも触れられている、以前から気になっていたある本を入手することにしました。それは Alistair Campsie“The MacCrimmon Legend, the Madness of Angus MacKay ”(1980)という本です。
 MacCrimmon 一族の真の評価と Angus MacKay の楽譜集の信憑性について疑問を投げかけたこの本は、出版当時かなり物議を醸し出した様ですが、Cannon「この本が呼び起こした論争がきっかけとなって、多くのパイパーがより一層深く研究に取り組む様になったという意味に於いては評価すべき側面がある」としています。これまではそんな論争の種となったような本に手を出すのはイマイチ気が引けたのですが、Cannon にこう書かれてしまうと、やはり《恐いもの見たさ》のミーハー精神が刺激されてしまいました。

 …といっても、今から26年前に出版されたこの本、COP のオンラインカタログに掲載されていないし、果たして入手できるのでしょうか?
 ところが、ダメもとで Amazon の検索に掛けてみるとなんと、ちゃんとヒットするではないですか。う〜ん、恐るべし Amazon!ですね。さらに興味深いのは、Amazon.co.ukAmazon.com で検索すると古本しかヒットせず、値段もイギリスで£23〜50前後、アメリカで$50前後と両方ともかなり高価なのですが、何故か Amzon.co.jp で検索すると古本だけでなく新品がヒットして、値段も円換算で¥1,664と驚く程安いんです。ここで、また「う〜ん?」と唸ってしまいました。

 さて、1980年に出版されたこの本の新品が在庫されていたとなると、1975年に出版された Francis Collinson のあの有名な“The Bagpipe. The history of a musical instrument”ももしかして?と思い立ち、検索してみました。そうしたところ、何と今度も見事に Amazon.co.uk Amzon.co.jp の両方で新品がヒットしました。
 う〜ん、ますます恐るべし Amazon です。これまでは、このようにちょっと古くて再版もされず、 COP のオンライン・カタログにも載っていない様な本の入手は無理だと勝手に思い込んでいたのですが、ものは試しに検索してみるものですね。COPNPC といったハイランドパイプ組織のオンラインショップよりも、 Amazon の方が余程スゴイ!


 はてさて、 Bridget MacKenzie さんの“Piping Traditions of Argyll”も読み終わらず、さらに近々次作がリリースされようとしているのに、またまたこんなお楽しみを仕入れてしまいました。毎年そうなのですが、パイパー森は夏休みが射程に入ってくると早々にお楽しみの本を揃えてしまう悪いクセがあるのですね。

 いや〜、ハイランドパイプって本当に興味が尽きないですね〜。

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