パイパー森の音のある暮らし《2006年3月》
2006/3/12
(日)

マウス・ミュージック

> 先月、誕生日に「ケルトのバグパイプ(LA ZAMPOGNA IN EUROPA/THE BAGPIPE IN EUROPE)」というCDをプレゼントされました。この中に1曲“MacKintosh's Lament”が入ってて、さらに1曲 (?) Canntaireachd が入ってました。
 「へ〜カンタラックは初めてだ」なんて思いつつ、CDのアタマから再生して聴いているうち、曲順なんか忘れ去ってました。
 するとどこからか、おっさんのうなり声というか、まじないのような声が…。たまに曲の前後にセリフのようなパートが入る曲もあるので、そんな感じかな、と思って聴いてても一向に音色が出てこない。気づけばこれがカンタラック?!
 bugpiperさんから聞いていたカンタラックはもっと音楽的で、それ自身も曲のようであったのに対し、このカンタラックは曲調も不明で怖いというかちょとキモい…(笑)。CDには何の曲のカンタラックかも記されておらず、夜中に聴くには軽いホラーショウです。
 でもこのCD、中の説明書きには各種バグパイプの説明や挿絵があって興味深し。カンタラックについては一切の記述がありませんでしたが。とりあえず贈り主に感謝!
 これって知らない人が興味本位で購入して聴いたら驚くだろうなぁ。


 Matt.B.B.さんが今年2月の掲示板で上のように話題にされていた、“MacKintosh's Lament” と妙なカンタラックとが入っているというアルバム“LA ZANPOGNA IN EUROPA” 「ケルトのバグパイプ」(キングレコード/アルバトロス名盤復刻シリーズ/KICC-5761)を聴きました。通して聴いてみてびっくりしたことに、その中のガリシアのガイタによる“Muineira(ムイネイラ)”という曲は、以前に一度聴いたことのある音源でした。

 それを聴いたのはパイプのかおり第3話のここに書いた1976年5月25日に放送された「世界の民族音楽」の「ヨーロッパのバグパイプ」という番組の中。つまり、ちょうど今から30年前ということです。もちろん、一度聴いただけというのではなく、その番組は録音して何度か繰り返し聴いたものですし、今でもそのカセットはちゃんと保存してあるから確かです。

 キングレコードのサイトのアルバトロス名盤復刻30選のページの解説(右のジャケット写真をクリック)によると、アルバトロスでは「200枚余にも及ぶLP盤が出されたことが1977年の同社のカタログからよみとれる。そのうち120枚ほどが地元イタリアもの、その他のヨーロッパ、アジア、アフリカがそれぞれ20枚」とのことですから、この時の音源はそのうちのヨーロッパものの20枚の中の一枚だったのでしょう。さすが、民族音楽の権威の小泉さん、当時の日本でこんなレコードをコレクションしていたのは多分この方だけでしょう。

 その番組ではもちろんハイランドパイプ(パイプバンドのマーチ)もイリアンパイプも紹介されましたが、それらはどちらもこのアルバムからではありませんでした。結局、このレコードから使われていたのはこの一曲だけで、他のヨーロッパ各地のバグパイプの音源も含めて、アルバトロスのその他のアルバムか、フォークウェイズやオコラのレコードからではないかと想像されます。

 さて、先ほど紹介した解説では、アルバトロスの音源の特徴は、アラン・ロマックスの手法を見習ってフィールドレコーディングにこだわっていたとのことで、ここで聴けるハイランド・パイプの演奏も、それ程名手とはいえないローカル・パイパーの素朴な演奏だといえるようです。
 例の“MacKintosh's Lament”の演奏もドローンが不安定だったり(もっとも、これは名手パイパーの演奏でも結構ありますが)、装飾音の表現が稚拙だったりして、ピーブロックの素晴らしさを実感するための音源としては少々もの足りないものがあります。


 さてはて、それよりもなによりも件の「妙なカンタラック」が曲者ですね。
 大体、解説を書いているこのアルバトロスのシリーズの製作者であるロベルト・レイディと言うイタリア人は、ハイランドパイプの音楽についてはあまり詳しくはないようで、ピーブロックの解説の部分でも結構いい加減なデタラメを書いています。
 そして、その挙げ句にこの曲を Canntaireachd (カンタラック)として紹介するというのにはなんとも困ったものです。

 この曲はピーブロックを口承するための Canntaireachd などではなくて、マーチやダンス曲といった Lithg Music を声で表現する音楽表現(マウス・ミュージック/日本で言うところの「口三味線」)の一手法で、ゲール語で Puirt-a-beul 、英語で Lilting などと呼ばれるものです。

Mat.B.B.さんが
>おっさんのうなり声というか、まじないのような声が…。〜このカンタラックは曲調も不明で怖いというかちょとキモい…。
と表現したこの曲を歌っているのも、実はおっさんなどではなく、(多分)ヘブリディーズ諸島の Barra 島辺りの女性です。

 ケルト圏には、このようなさまざまなマウスミュージックの伝統が根強く残っています。その理由としては、手元に適当な楽器が無い時に、声で演奏するダンス曲を伴奏にしてダンスを楽しむという文化があったということ、そして、特にパイプミュージックについては、1746年の Culloden の戦いの後、スコットランド全土に施行された武装解除法でハイランドパイプも武器の一つとみなされてその演奏が禁止された状況下において、その伝統を絶やさないために、パイプチューンを口承で伝えるために特に発達したと言われています。


 さて、そのようなケルト圏のマウスミュージックをたっぷりと味わいたい人に絶対にお薦めなのが、文字どおりそのものズバリのタイトル名のアルバム“Celtic Mouth Music”(ellipsis arts / CD4070/ 1997年)です。
 このアルバムは Donald MacPherson の“Living Legend”と同様の CD&BOOK 形式でリリースされているもので、ケルト圏の様々なマウスミュージック37曲を収めた1枚のCD、そして、1950年代頃のローカル・シンガーたちを中心にした白黒写真をふんだんに収めつつ、マウスミュージックについて懇切丁寧に解説した64ページにもなる本文とを、分厚いハードカバーのブックレットに収めた、まさにコレクターズ・アイテムの逸品です。

 残念ながらこのアルバムは現在、絶版になっているようですが、不幸中の幸いな事にアマゾンのカタログ(右のジャケット写真をクリック)にこのアルバムがまだ掲載されたままになっている上に、37曲全てについてサンプル音源を聴く事ができます。

 ケルト圏のマウスミュージックについて深く知りたければその詳細な解説に目を通すことがなによりであることに変わりは有りませんが、まあ、とりあえずは Matt.B.B.さん言うところの「おっさんのうなり声」のようなでもその実おばさんの声といった例(テイク20)を始めとして、本物のおっさんのうなり声、そして、天使の歌声を思わせる女性シンガーの歌など、多様な37曲のサンプル音源を聴くだけでも、大いに参考になる事は請け負います。

 それとも、皆さんあまりのキモさに口あんぐりかも?

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