川原毛・泥湯

 2004年10月、会社の社員旅行で泥湯に行った。我社の社員旅行は10人以上集まれば、各グループ毎に好きなところに行ってよいシステムになっている。当方が呼びかけて、14人の秘湯グループを結成し、マイクロバスで秋田県の泥湯に行くことにした。もちろん目当ては「川原毛の大湯滝」である。時間を有効利用するため、前夜発で、東北道経由で出発。

第1日(晴れ)
 朝食には少し早いが、6時頃、長者原SAで朝食。まだレストランが開いていないので銘々食券を買ってビュッフェ形式の食堂で朝食。社員旅行なので経費は会社から出る。ただしすべて領収書が必要。銘々で食券を買った場合、領収書をどうやってもらったら良いか分からない。マイクロバスの運転手さんに聞いたら「カウンターに食券を出したとき領収書をくれといえばいい」とのこと。みんなから食券の半券を集め、カウンターに持っていって領収書を書いてもらった。幹事は忙しい。

 築館ICで降りてR398に入った。静かなと言うより淋しい築館の町を通過。狸が道路脇を歩いていた。空は晴れているが薄く巻雲が覆っている。湯浜峠で栗駒の展望を楽しむ。栗駒山は頂上付近が雲に隠れて全容が見えなかった(写真01)。8時に湯浜入口に着いた。紅葉はまだチラホラという感じで緑が多い。ここで湯浜温泉に入るため1時間ほど取った。

        写真01 湯浜峠から栗駒山を望む

 8人ほど湯浜温泉に入りに行くという。最初は階段の下りがあるが、あとは平らな道を10分で宿に着いた。途中に露天風呂があるので「内湯にこれだけの人数は一度に入れないから、何人かこの露天風呂に入ってくれ」とたのんだ。メンバーのうち3人が入った。

 宿で、露天も入れた8人分の入浴料を払った。宿の外観は湯治場風の一軒宿だが、内装は新しかった。玄関には人懐こい太り過ぎのレトリバーがゴロンと横になっていた。内風呂は結構熱い43.5℃の硫黄泉(写真03)。硫黄泉でも白濁していないところが珍しい。風呂場に名物のランプも取り付けてあったが、既に自家発電で電灯になっていた。
 玄関脇の休憩室で一服したらもう8:55。宿を出て急いでマイクロバスに向かった。

          写真03 湯浜温泉の内湯

 湯浜を9:20に出発。曲がりくねったR398を進むと、両側に湿地帯のような池塘が散在していた。その中を下って行くと「栗駒神水」という清水が湧き出しているところに着いた。ここで10分ほど休んで清水を飲んだ。水温は10℃。この付近の名水らしく水を汲みに来る人に対するルールが掲示されていた。

 そこから少し下ると大湯に着いた。ここは小安川の上流部で宿は一軒のみ。自動車道路の脇や山腹、川の対岸などから湯気がもうもうと噴きあがっていた。温泉の豊富なところだ。秘湯に入る会のKさんが先週この付近の野湯を捜しに出かけたはずだが、「さもありなん」と頷ける。

 更に下るとじきに小安峡温泉に着いた。温泉旅館があるところから小安峡への降口は結構離れていた。駐車場所に比較的近い食堂で昼食。全員が稲庭うどんを頼んだのには驚いた。そんなに有名なのかな。そこで「11:30には小安峡から戻るからそれまでに作っておいてくれ」と頼んで、小安峡見物に出かけた。でも3人は不動の滝に行きたいというので上流側へ。釣をしたいのだそうだ。

 小安峡への降口はそこから更に5分ほど歩いたところだった。観光バスの駐車場があるところだ。キレイに敷石の貼られた階段を高低差で50mほど降りて行くと渓谷沿いの遊歩道になった(写真05)。上流側に不動の滝が見える。大噴湯の前はもうもうたる湯煙の中に大勢の人がいた。粘板岩の隙間から轟音と共に熱湯が水平に噴出していた(写真07)。凄い迫力だ。この付近の温泉の豊富さが感じられる。

          写真05 子安峡の遊歩道

写真07 子安峡の大噴湯(前方:上流) 右側から熱湯が水平に噴出している

 両岸は垂直な断崖。真上に赤いアーチ橋がかかり、その橋の上からも人が覗きこんでいる。噴湯が注ぎ込む渓流には岩魚が沢山いた。温泉の影響か、水は通常より緑色が強かった。数十年前、夏に来たときここで泳いだはずだというあたりで渓流に手を入れてみたが冷たかった。暖かいのは夏だけなのかな。最後の階段登りは九十九折りで結構登りでがあった。アーチ橋の上から子安峡を見下ろすと吸い込まれそうだ(写真09)。

  写真09 子安峡を上から見下ろす

 11:30ジャストに食堂に戻り、稲庭うどんを食べた。小安峡を12:30に出発して、いよいよ川原毛の湯滝に向かう。マイクロバスの運転手さんに任せていたら、いつのまにか泥湯に出てしまった(写真10)。「ここではない、三途川から入るところにある駐車場だ」と言ってみたが、運転手さんが三途川を知らなかった。いまからそちらに回っても時間がかかるし、駐車場が満杯で待たされても困るので、そのまま川原毛の上の駐車場に着けてもらった。

            写真10 泥湯全景

 駐車場はガラガラだった。片道20分ぐらい余計になるが観念してそこから歩く事を皆に伝えた。川原毛の白い地獄は何時見ても迫力はある(写真11)。そこで記念撮影してから、いよいよ下り始めた。20分ほどで下の駐車場に着いた。ここも半分ぐらいは空いていた。紅葉の盛りにまだ早いので人の出足が鈍いのかもしれない。

           写真11 川原毛地獄

 そこから先は本格的な山道で、なんとか全員無事、大湯滝の前に着いた。滝壷には先客が10人ほどひしめいていた。前回は17時ごろ着いたので薄暗く、ボケた写真しか撮れなかったので、早速、湯滝の全容を写真に収めた(写真13)。脱衣所で水泳パンツにはき替えて、防水のカメラを持って湯滝へ。裸足では足の裏が痛い。皆が湯滝の滝壷に入っているところ(写真15)を上から撮ろうと中段の滝壷まで登った(写真17)。傾斜は45度程度なのでたいして難しくなかったが、酸性の湯が目に飛び込んで痛くて目を開いていられない。それを我慢しながら数枚写真を撮った。

          写真13 大湯滝全景

        写真15 大湯滝の滝壺温泉に入る

         写真17 大湯滝中段まで登る

 中段の滝壷は滝の飛沫を頭から被るので目を開いていられない。目をつぶって滝壷につかると丁度良い一人用の湯船だ。湯はぬるいので外に出ると寒い。もう1つ上の滝壷まで登りたかったが水勢が強く流されそうだったのでやめた。上から見ると滝壷の湯が濃い緑色をしている。酸性の強い温泉は皆この色だ。カムイワッカ然り、香草然り。

 下に降りた頃には、みな適当に楽しんだのか、寒くなったのか、引き上げてしまい、いつのまにか当方だけになっていた。他の客も引き上げ、一人で下段の大きな滝壷を占領して泳いだ。見上げると20mの岩壁から、湯がほとばしり出るように飛び出していた。背景に紅葉した枝も見え一幅の絵になっている(写真19)。

       写真19 大湯滝の上部を見上げる

 登りの山道で菊花石を見つけた。直径20cmぐらいの形の良い菊花石だった(写真21)。貴重な石なのでマニアに盗掘されなければいいが。

        写真21 山道で見つけた菊花石

 川原毛地獄を登り返し、上の道路には15:30ごろ着いた。マイクロバスで泥湯の奥山旅館へは16:00頃ついた。旅館でチェックインして30分経っても運転手さんが入って来ない。間違って他の旅館に入ってしまったのかと心配していたらやっと入ってきた。バスを掃除していたとのこと。

 それから奥山旅館の風呂巡り。奥山旅館の風呂は内湯1つ、外湯3つとのこと。夕食までに外湯に2つほど入った。最初に大露天風呂に入った。5~6人入っていたが、みな温泉通らしく「本当に湯を楽しんでいる」という風情で静に入っていた。少し温めの白濁した硫黄泉だ。お互いに温泉の話がはずむ。他人様がいるので写真は遠慮する。

 次に道路の反対側の湯小屋に入った。ここは小さな内湯があり、外に木造の東屋がかかった露天風呂があった。一段高いところにも露天風呂があり、そこは混浴で、女湯からの通路もついていた。

 5時半から食事ができるとのことなので5時半に食事を頼んだ。どのグループも5時半から食事を始めたので、従業員がてんてこ舞いしていた。5~60人近い客が一時に押し寄せたのでは忙しいだろう。頼んだ酒もなかなか出てこなかった。それでも楽しく宴会が始まった。

大広間の壁には、館主作の「あの世からお迎えが来たときのお断りの口上」なる掛け軸がかかっていた。なかなか面白い口上だった。
六十歳にしてお迎えが来たら 色気と人生の尊さはこれからだと言え
七十歳にしてお迎えが来たら この世を去るのはまだまだ早いと言え
八十歳にしてお迎えが来たら 泥湯で湯治して体調を整えてから行くと言え
九十歳にしてお迎えが来たら 三途川で通行手形をもらってから行くと言え
百歳にしてお迎えが来たら
   良い時機を見てエンマ様に相談して、無情の風に乗って行くと言え

 一泊9500円だが、値段の割に料理は豊富だった。食べても食べても次から次ぎに料理が出てきて腹一杯になった。特別料理を頼まなくて良かった。どのグループも温泉談義で花が咲いていた。泥湯にくるくらいだから温泉好きなのだろう。7時半頃にはお開きにして部屋に引き上げた。夜は昨日の夜行の疲れで9時前には寝こんでしまった。

2日目(晴れ)
 6時に目がさめた。朝飯前に泥湯の地獄を見に行った。Aさんと出かけたのだがそのうち皆がやってきた。結構派手に噴き出している(写真23)。地獄のそこかしこに小さな木が倒れていたので、ごく最近まで山林だったところに突然噴き出したのだろうか。那須の殺生石のようにひび割れた大きな岩の下からもうもうと蒸気が噴き出していた(写真25)。ボッケもあり(写真26)、木製の湯船なども作られていた。

           写真23 泥湯の地獄

     写真25 泥湯地獄の大岩の下から噴出する噴気

         写真26 泥湯地獄のボッケ

          写真27 奥山旅館を出発

 8:30奥山旅館を出発(写真27)。バスが泥湯の真上を通るとき「ここは泥湯のビューポイントなので」と言って少し停めてもらった。みな写真を撮っていた。川原毛地獄でも少し撮影時間を取った。昨日より晴れているので、白い地獄と紅葉のコントラストが美しかった。秋の宮への道を進むと展望台があり、川原毛地獄の全景が良く見えた。

 秋の宮温泉郷は素通りして仙秋ラインを越えて、鬼首温泉郷の吹き上げ温泉に10:00に着いた。峯雲閣の滝壷温泉と露天風呂に入る。宿の人が「滝壷は長雨で29.5°なので冷たくて入れない。滝壺と露天風呂はカメラ持ち込み禁止です」というのでガックリしながらも露天風呂に行ったら、滝壷にも人が入っている。当方も入ってみたら結構暖かい。

 滝が落ちている壁は温泉から析出したトラバーチンだった。とすると昔はこの壁から湯が湧き出していたのであろう。滝壷は直径10mぐらいで深さは腰ぐらい。ちょっと深い湯船という感じだ。滝は高さ2m、幅10mというところか。ここでたっぷり楽しんで、次は間欠泉(竜巻地獄)へ。10分ごとに15m吹き上げるとのこと(写真29)。ずいぶん間隔が短いので、「ポンプで噴き出しているのでは」と勘ぐりたくなる。ここは見物客で一杯だった。
 11:30ごろ間欠泉を出て帰途に着いた。あとはひたすら東京目指して走るだけ。

       写真29 鬼首の間欠泉(竜巻地獄)

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