神奈川県境踏破2

神奈川県境踏破(第二部)
 6回目(川崎~浮島)5月

  今日も多摩川の土手を歩くだけなので軽い気分で 歩きだした。5月ともなると結構陽が暑い。 京浜急行の脇から土手に登り、六郷橋のたもとに 出ると、六郷の渡しの説明版が建っている(写真 61)。

        写真61 六郷の渡しの説明板

  それから少し進むと、1928年にできた、国登録有形文化財の川崎河港水門がある(写真62)。 かなり大きな構造物で頂上にカリフラワーのような彫刻が2つ乗っている。資料によると、川崎の名産品(なし、桃、ブドウなど)を盛り合わせたものらしい。 河口まで 4.8km のキロポストも建っている。

    写真62 川崎河港水門とキロポスト

 単調な土手道を歩いて、産業道路と首都高横羽線を過ぎると、雑草だがきれいな花が咲いている(写真 63)。

      写真 63 きれいな花が咲いた雑草

  さらに進むと、河口から 1km のポストが建ってい る。このあたりから先の多摩川の干潟には、潮干狩りに来た人がかなり見受けられる。 いよいよ河口の標識が建っているところに着いた。
 背景は羽田空港である。潮干狩りしてきた人の収穫(ハマグリ)と一緒に写真を撮った(写真64)。

        写真64 多摩川河口標とハマグリ

  実際の多摩川はこれから先に4kmほど流れてい るが、これは埋め立てで伸ばした陸地なので、多摩川の河口はここになっている。県境踏破者としては、 先端まで行ってみたいので、図65 の黄色い線のよ うに、なんの風情もない埋め立て地の工場街を歩い てゆく。

       地図 65 河口(黄色ピン)から浮島までのルート

  浮島に着いたら前方に東京湾アクアラインの空調タワーが見えるが、一般人はそこまでは入れなかった。釣り人エリアで対岸の羽田空港に離発着する飛行機を見て、バスで川崎駅に戻った。 今日で神奈川県境の東半分が終わりなので、相棒 と一緒に、中締めとして一杯やった。

 

7回目(乙女峠~駿河小山)5月

  前回までは県境の複雑さはあったが、ほぼ平地を歩く旅だった。今回からは神奈川県の西半分で、県境は 1000~1500m 程度の尾根を通っている。しかも、 ところどころ尾根筋に道がない。そういうところは藪漕ぎで突破するしかない。
 今日のコースは地図71 のとおりで、箱根外輪山の乙女峠から金時山を越えて北に向かい、足柄峠を経由して駿河小山までである。このうちちゃんとしたハイキングコースがあるのは緑線の部分だけで、赤線の部分には道がなく猛烈な藪漕ぎで突破しなければならない。黄線部分はかすかな踏跡がある。乙女峠登山口までは高速バスの新宿箱根ラインを使った。登山口がすでに800mあるので、それだけ楽だからである。我々のような高齢者は、こういうところで横着をしないと県境踏破は難しい。

   地図71 今日のルート(乙女峠~駿河小山)

  水色の部分は、正規の県境が時間不足で通れそうになかったので、一般道路を迂回した部分である。
 

 バスを降りて最初に最初に歩き出した「乙女峠登山口」では素晴らしい富士山が出迎えてく れた(写真 72)。

      写真72 乙女峠登山口から見た富士山
 30分ほどの登りで乙女峠に出ると乙女峠の茶屋はすでに廃業していた。噴火警戒レベル2 となった 大涌谷から盛んに蒸気が立ち上っているのが見えた(写真73)。

        写真73 警戒レベル2の大涌谷
 箱根の外輪山をたどって金時山頂を過ぎると県境は北へ向かう。急な鉄の梯子をいくつか下ってゆくと猪鼻砦跡、足柄城址がある。この辺の尾根には小田原北条方の砦が随所にあったようだ。今川や武田に備えていたのだろう。 足柄峠には、熊にまたがった金太郎の像や足柄の関跡がある。その少し先の万葉公園までは道があるが、それを過ぎると道はあやしくなる(写真74)。 国土地理院の25000地図と地形をよく見比べながら、慎重に県境をたどってゆく必要がある。

        写真74 いよいよ藪漕ぎになった

  藪を過ぎ、植林帯(といっても今は放棄され、手入れされていない)に入ると下草はなくなるので、比較的歩きやすい。どういう訳かこの県境には、県境標は見られず、図根点と書いた標識があちこちに建植されていた(写真75)。これはどういう意味の標識なのだろう。

           写真75 図根点標

  633mのピークには国土地理院の三角点が設置さ れ(写真76)、ここには北条方の丹土尾砦があったそうで、今でも空堀跡が残っている。

       写真76 633mピークの三角点標柱

  さてこれから先が人跡未踏と言ってよいほどの過酷な藪漕ぎが始まる。ご親切に「これから先には行くな」という意味のバリケードができていた(写真77)。

     写真77 これから先に行くなというバリケード

 身の丈を越える藪をかき分けながら下って行くうちに尾根を一つ間違えたらしく、右手に自分より高い尾根が連なっている。向こうの尾根に移りたいが、 間は小さいながらも急峻な谷で降りられない。しかたなく現在の尾根を下ってゆくと、何とか沢筋に降りられそうな斜面を見つけた。半ば滑り落ちながら沢筋に降り、対岸の急斜面を登った

 道らしきものが見えたのでそれをめがけて登ったら、柔らかな道で、イノシシの足跡がたくさんついていたの で獣道なのだろう。 獣道を登ってなんとか尾根の稜線に出たら、金網があり、その向こうはゴルフ場だった(写真78)。 ゴルフ場の周りには獣除けの感電線も張られていた。こんなところでよくプレーする気になるな。

     写真78 藪漕ぎ尾根の向こうはゴルフ場だった

 時間も17時に近かったので、ゴルフ場から東名高速までの県境はあきらめ、う回路を通って駿河小山駅へ向かった。

 

8回目(乙女峠~箱根峠)6月

 今回は箱根外輪山をめぐるだけなので気軽なハイ キングだ(地図81)。乙女峠→箱根峠→箱根町と歩いた。藪漕ぎは図81の赤線のところだけである。

      地図 81 乙女峠~箱根峠

  まず乙女峠から丸岳を目指す。気持ちのいい山道が続き、丸岳 1156m に着く。頂上には大きなアン テナが建っていて、芦ノ湖の眺めも良い(写真83)。

      写真 83 丸岳頂上からの芦ノ湖の眺め

 さらに外輪山を南下し、長尾峠を越える。県境の山道を歩いている分には、本当に山の中という気分がするが、並行して箱根スカイラインが走ってい るので、遠く近くで自動車の音が聞こえる。1063m峰に登る途中に富士見ヶ丘公園という眺めの良い草原がある。 湖尻峠に下る斜面から、箱根スカイラインと三国 山 1101m がよく見える(写真 84)。

       写真 84 三国山と箱根スカイライン

  湖尻峠までぐっと下って、スカイラインを横切り、また山道に入る。ひとしきり登ると三等三角点のある三国山だ。 神奈川県境には三国山が3つある。その一つがこ れで、相模と伊豆と駿河の国境にあるからである。ほかの三国山のいわれも、その山が出てきたところで紹介しよう。 県境にはいろいろなマークの杭があるが、この8 マークの杭は何を意味しているのか(写真 85)。

         写真85 8マークの杭

 三国山から下ってゆくと山伏峠があるが、峠という地形ではなく、山腹をトラバースしているだけだ。 なんでここを山伏峠と名付けたのか不思議だ。

 山伏峠からだらだら下ってゆくと、芦ノ湖と駒ヶ岳の眺めが良いところにレストハウスがある。そこに可愛いマスコットのクッキー君(写真86)がいるので、もし行く機会があったら是非見てほしい。

        写真 86 マスコットのクッキー君
 さらに進むと海ノ平というところを通って、箱根峠まで一気に下る(写真87)。

     写真87 海ノ平から(黄:登山道、赤:県境)

 海ノ平を過ぎると、登山道は黄線のように左に曲がって箱根町に降りてゆくが、県境は赤線のように真っすぐ藪の中を下ってゆく。そこだけ樹木がないのは防火線を兼ねているのだろう。我々は当然、藪に突入する。その道を進んだ先は箱根峠に登ってくる自動車道路の擁壁の上で降りられない。左に大きく藪の中を迂回して自動車道路に出た。その藪の出口の様子は写真88 のとおりである。

         写真 88 県境の藪漕ぎ出口
 次の行程を考えて、鞍掛山手前までの県境をつぶすため、鞍掛 CC の入り口まで舗装道路を歩いて往復した。あとは旧街道を通って箱根町に下った。6月とはいえ、17:30 になると、木がうっそうと茂った旧街道は薄暗かった(写真89)。

     写真89  旧街道の石畳

 

9回目(箱根峠~湯河原海岸)6月

 今日の藪漕ぎは厳しかった。最初の鞍掛山の登りの藪漕ぎで度肝を抜かれ、あとはエスケープの連続。 908m 峰からの下りで再挑戦したが、これも途中でギブアップ。結果として地図 91 に示すようなルー トになってしまった。

            地図 91 箱根峠~湯河原~湯河原海岸

       赤:藪漕ぎ、黄:かすかな踏跡、緑:県境の道、 青:迂回道路

 今回も下りが多くなるよう、箱根峠まではバスで行った。箱根峠を出発し、R20 を鞍掛山の麓まで行く。行く手にはこれからアタックする鞍掛山の斜面が見える。笹の部分はまるで芝生のようにみえ、鼻歌交じりで登れそうに見える(写真92)。

        写真92 鞍掛山の斜面(簡単そう)

 ゴルフ場の脇を通り、いよいよ赤線のように藪に突っ込む(写真93)。

     写真 93 赤線のように藪漕ぎしながら登る

 いざ笹藪に突っ込むと、笹の強さと密度に辟易した。笹はおおむね寝ているので腰ぐらいの高さだが、笹の下が空間になっていて、足が落ちてしまい、足が笹に挟まれて抜けない。原生の笹藪の手強さを思い知らされた。 Webで調べた先駆者の記録を見ると冬にアタックしているが、この笹藪は冬でも同じだろう。笹についている黒いゴミで体中真っ黒になりながら、なんとか頂上にたどり着いた。

  写真94 県境の笹藪の深さと赤い境界標

  ここの県境には県境標はなかったが、何かの境界標らし い赤い標識が建っていた(写真94)。尾根の上に出 ると鞍掛CCと芦ノ湖が見下ろせる(写真95)。

        写真95 県境尾根の藪の状態

  ゴルファーからは「あいつら藪の中でもがいているが何をしているのだろう」と映ったに違いない。 わずか 500mに1時間25分かけて、ようやく頂上の電波塔にたどり着いた(写真96)。

        写真96 鞍掛山頂上の電波塔

  鞍掛山の頂上には電波塔が3つある。それぞれ柵で囲まれていて立ち入りできない。県境は南東に下 る尾根を通ってR20に戻ってゆくのだが、登りの笹藪の手強さにたじたじとなり、電波塔保守用の自動車道を使って下ることにした。 電波塔の付近に猫がいたのには驚いた。野良猫が野生化したのだろうが、こんなところに餌があるの だろうか。

 大回りして R20 に戻り、だいぶ時間も遅れているので、R20 を歩いて山上の無名湖まで行く。そこから県境の踏跡に入り、急な斜面を 908m 峰に登る。 踏跡は明瞭に続いているが荒れている(写真97)。

      写真97 県境稜線の踏跡は荒れていた

 いよいよ県境が稜線を離れて東斜面を下る地点に 来た。最初の100m程は送電線保守用の踏跡があったが、それから先は本格的に笹薮をかき分けて下る。笹藪の中は昼なお暗い(写真98)。

       写真 98 昼なお暗い高密度の笹薮

  下り斜面の力も借りて笹薮を押し分けながら進んだが、かすかな踏跡が横切っている杉の植林帯に出たら、足が自然にそっちの方を向いてしまった。本来の県境はこのまま直進し沢に沿って下るのだが。 ここでまたエスケープ。 昔の山仕事の道なのだろう踏跡もじきに消えてしまい、荒れ放題の杉林の中を下ってゆく。道も豪雨に洗われ、岩がゴロゴロ転がっていて歩きにくい。ようやく県境が走っている沢との合流点に達した。その付近で苔むした県境標を発見したときはうれしかった(写真99)。役所の仕事はしっかりしている。

         写真99 苔むした県境標

  25000 地図によれば、ここから150mほどで、右岸の高みに林道が走っている。これを求めて沢から離れ、右岸の山腹を藪漕ぎしてゆく。20分ほど藪漕ぎして林道に出たときにはうれしかった。「助かった」というのが実感(写真99-2)。

      写真99-2 ようやく林道に出た、助かった

  助かったのはいいが、県境は沢に沿って下っているので、このままでは県境から離れる一方だ。少しでも近くを通ろうと、途中でこの林道を捨て、山道に入りなおした。ここも杉の植林帯だが、もう手入をしていないらしく道が荒れていた。あちこちで迷いながら、どうやら湯河原温泉を見下ろせる地点まで下ってきた(写真99-3)。

        写真99-3 湯河原温泉の街並み

  あとは温泉町に出たら、千歳川に沿って河口まで歩くだけだ。気が楽になった。でも時間が遅いのでガツガツ歩く。 17:45 県境になっている千歳川に着いた。川沿いを海に向かう。西村京太郎記念館を見送り、東海道新幹線の鉄橋近くで、川辺に大きなイノシシがいたのには驚いた。写真を撮ろうと思ったが、一瞬、彼の方が先に気付いて、藪に消えていった。 18:38 いよいよ千歳川の河口に着いた(写真99-4)。

         写真99-4 千歳川の河口

 もう薄暗くなった町の中を湯河原駅まで歩き電車に乗った。座席に座るのが憚られるほどズボンやシャツが汚れていた。今日はずいぶん骨が折れた。

 

10回目(駿河小山~三国峠)6月

  今日は駿河小山から山中湖の手前の三国峠まで歩く予定である(地図 101)。 今日は藪漕ぎはない。三国山まで歩けば静岡県との境も終わりである。

          地図101 小山~三国峠のルート(藪漕ぎなし)

  駿河小山駅で降り、川を渡って R246 の下まで行くと、大きな岩を川が削り込んだ滝がみられる(写真102)。 大げさに言えば、スイスのトゥリュンメルバッハの滝のようだ。

       写真102 大きな岩を川が削った滝

  R246 を潜ると山道になる。長い階段道を 484m峰まで登ると県境と合流する。神奈川県と書いた県境標も建植されている(写真103)。

         写真103 神奈川県の県境標

 杉林の多い比較的ゆるい登りの尾根を2時間ほどたどると不老山への分岐に達する(写真 104)。

        写真104 不老山への分岐

 県境の山ではないが一応不老山頂も往復して世附峠に向かう。ここから先の県界は西に向かう。世附峠は、半分廃道のような林道が尾根を横切っていた(写真105)。

           写真105 世附峠
 このへんの県境標には番号が刻まれているものが多い(写真106)。シカに皮を食われた木もある(写真 106)。シカも増えすぎるとやっかいなものだ。

   写真106 No 入りの県界標、シカに食われた木

 尾根道には富士山から噴出したと思われる荒目の火山灰が積もっているところが多かった 一旦 746m の峠まで下り、300m ほど登り返して 湯船山 1040m へ。300m の登り返しは高齢者にとっては大変だ。湯船山を過ぎたあたりに大昭和製紙の杭が建っていたので、この辺の山林は大昭和製紙の山林なのだろう。

  気持ちの良い山道を下ってゆくと、左に富士サーキットが見え、じきに明神峠に達する。 ここからしばらく自動車道路を歩いて、途中から三国山への県境の山道に入る。そこの指道標に金太郎さんが乗っていた。小山町では金太郎を観光の目玉にしているらしい(写真 107)。

  写真 107 指道標の上に金太郎があるのに注意
 三国山へは標高差 280m あり、アゴを出しながら山頂にたどり着いた。この山は相模と駿河と甲斐の国境に位置する。この頃には雲(霧)が出てきて寒いくらいだった。写真を撮って早々に三国峠に下る。次回登る県境登山道の入り口が対面に見える(写真108)。

    写真108 次回はここから歩き始める(三国峠)

 今日の行程は、実はこれからが大変なのだ。三国峠はバスが走っていないので、山中湖畔の旭丘まで歩かなければならない。パノラマ台まで R493 を歩き、パノラマ台からハイキングコースで山中湖畔まで下り、R413 を旭丘まで歩いた。幸か不幸かバスが遅れていたので本来は間に合わないバスに乗れたが、御殿場駅で 1 時間待たされた。御殿場線は列車本数が少ないのだろう。

 

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