自作旅行のすすめ

 

 小生が外国旅行するときは、インターネットを通じて地元とコンタクトをとり、全部自分で手配して出かけることが多い。目的地の近くに洞窟や温泉があるとどうしても寄り道したくなるので、旅行社のお仕着せパックツアーでは物足りないからである。別に孤独を好むわけではないが、自分独自のコースとなると一緒に行こうという人がいないので、どうしても一人旅となる。一人で言葉も通じない外国を歩いていると途方にくれることもよくあるが、それだけ現地人との接触も濃厚になり、パックツアーでは得られない何かがあるような気がする。そこで今回は「自作旅行のすすめ」と題して、どのように旅行を手配し、どんな点に気をつけているか、手の内を紹介しよう。

 まず、どのガイドブックを見て、行きたい場所を決めるかが問題だ。今まで使ったガイドブックの中では「Lonely Planet」が最高だ。英語のガイドブックだが世界各国揃っていて、内容も豊富できめ細かい。日本の「地球の歩き方」など足元にも及ばない。行きたい場所が決まったら、八重洲ブックセンターに行って、その国のできるだけ大きな地図を買ってくる。行きたい場所の位置と必要な交通機関を頭に叩き込むのだ。

 今はインターネットが充実しているので、英語圏でない国でも、英語のHPを探すだけで大抵の場合用が足りる。まず、どの地元旅行社とコンタクトをとるかが問題だ。小生の場合、同じ国の中でも地域が離れている場合は、それぞれの地域ごとに別会社にコンタクトをとっている。地元会社の方が地元の情報に詳しいからだ。チベットに行ったときは、日本の旅行社では「今年はチベット~ネパール道路が工事中なのでチョモランマのベースキャンプには行けない」と言っていたが、中国のチベット専門旅行社にコンタクトを取ったら「迂回路はありますよ」とのこと。おかげで開通直後のチベット鉄道に乗れた。

 地域別に分けたとしてもインターネットで検索すると数多くの旅行社が引っかかってくる。そのどれを選ぶべきか悩むことが多い。比較的分かりやすい英語で書かれている会社を選ぶようにしているが、そのような会社が見当たらないときは、Google検索で一番最初に出てくるものは一番アクセスが多いのだろうと勝手に思い込んで、その会社とコンタクトを取っている。このような判断基準で選んでも、幸いなことに、いままでインチキ会社に引っかかったことはない。

 次にホテルだが、小生が利用するホテルは2つ星、3つ星の安宿なので、ホテルを予約してしまうと現地についてからホテルを探すのに苦労する。言葉が通じないところでは道順を聞いても分からない。だからホテルは予約しないで、現地についてから目に入ったホテルに飛び込むことが多い。フランスの田舎町のホテルでは入口に値段が書いてあるので助かった。現地通貨もなく、言葉も通じないときは、フロントで VISA カードを出して「OK?」というような身振りをすれば、相手の身振りでOKかどうかぐらい分かる。

 交通機関(国内航空、鉄道、バス)の予約も、その会社のHPに飛び込めば、日本で予約できることが多い。カード決済すれば切符を日本まで送ってくれるか、又は、電子予約券を添付ファイルで送ってくれる。しかし、必ずしも英語のHPではないので、発・着・経由・等級ぐらいは現地語を覚えなくてはならない。予約申し込み画面には大抵の場合メモをつけられるようになっている。英語圏でない場合は、頭に現地語で「英語」と書いて、以下は英語でこちらの希望や質問をつければ、英語で返事が返ってくる。

 言葉が通じないところで一番困るのは食事である。レストランに入っても英語のメニューがないので何を頼んだら良いか分からない。一番手っ取り早いのは、他人が食べているものを見て「あれはうまそうだ」と思うものを指差せばよい。しかし、常に「うまそうなもの」を食べている他人がいるわけでない。旅の途中で英語が話せる現地人と出会ったときに、「この国のお奨め料理をいくつか書き出してくれ」と頼むのである。以後はレストランでその紙を出して、「これあるか、これあるか」と指でさしてゆけばよい。

 言葉が通じなくて困るのは食事だけではない。フランスのアルデシュ峡谷にある有名な天然橋ポンダルクと付近の鍾乳洞を廻ったときは、ホテルにたのんでタクシーを一日チャーターしてもらった。運悪くやってきた運転手は英語が話せないという。しかたないので、仏和・和仏が一緒になったポケットサイズの辞書を出して、お互いに単語を指差しながらの会話となった。この方法は時間がかかりなんとももどかしい。街角での行きずりの立ち話にはとても使えない。このときのやりとりが、洞窟編の「フランス石灰岩地帯探訪」に載せてあるので見て頂きたい。今では電子辞書の性能が良くなっているので、電子辞書を使えばもう少しましかも知れな い。

 ガイドブックに「生き馬の目を抜く」と注意書きのある国で何か尋ねるときは、通行人ではなく、できるだけ公的な場所か近くの店で聞くようにしている。例えばペルーで両替所を探したとき、たまたま近くにバスターミナルがあったので、切符売り場の窓口に行って、100 ドル札を出して「カンビエメ(両替)」と言ったら、「ここは違う」というようにさかんに手を振っている。すかさず「ドンデ(どこ)」と聞く。スペイン語は分からないが、手の動きを見ていれば「この坂を下って左に曲がる」ぐらいは分かる。その方向に行ってまた聞くのである。だから最低限必要な現地語の単語10個ぐらいは覚えてゆく必要がある。

 観光地なら英語のHPを探すだけで大体用が足りるが、小生の愛する洞窟となると必ずしも観光地ではないので、地元とコンタクトをとるにはいろいろと知恵を絞る必要がある。ガイドブックには、リマ北東200km付近に Guagapo Cave という南米大陸最大の鍾乳洞があると紹介されていた。観光洞ではないので入洞するには案内人が必要なようだ。しかし、いくらイン ターネットで漁っても、英語のHPでは詳しく紹介しているものがヒットしない。スペイン語のHPはたくさんヒットしたが、残念ながら読 めない。

 ガイドブックには案内人の名前も出ていたので、出版社に著者又は案内人のコンタクト先を教えてくれとメールを送ったが音沙汰なし。ペルーのアドベンチャーを売り物にした会社数社にコンタクトをとって、Guagapo 洞ケイビングのアレンジをしてくれとたのんだが、「当社のレパートリーの範囲外である」と断ってきた。日本洞窟学会でペルー洞窟学会の連絡先を聞いたら、メアドを教えてくれたが、「いつも何も応答がありませんよ」とのこと。メールを出してみたがやはり応答なし。

 地元の Tarma 市役所のスペイン語のHPを探し当て、その問い合わせページと思われるところから、頭に(Ingles)と書いて、英語で「案内料は出すので、Guagapo 洞を案内してくれる 人を紹介してくれ」と書いて送ったら、英語で「私が案内しよう」と返事が返って来た。やれ 嬉やと、次の段階の質問、「①個人装備は持ってゆくから共同装備はそちらで手配してくれ、②洞内の水深は、水温は?」と聞いたら、返事が来なくなった。どうやら入口まで案内すればいいと思っていたようだ。

 ペルーに出かける直前までいろいろもがいてみたが案内人とコンタク トが取れなかったので、鍾乳洞に行く予定日を利用して中央アンデス鉄道(海抜 4780m)に乗った。手配が確定できないときは、切符が無駄になることも覚悟の上で、代替案を用意しておくと良い。

 一般に言われている常識として、「フランス人は誇り高いので英語で聞いても答えない」というのがある。しかしこれは嘘。小生が洞窟を求めてフランスの片田舎を旅したときは、ずっと英語で通したが、どこでも英語で応答してくれた。答えないヤツは英語ができないヤツだ。フランスで困ったのは数字の書き方が日本と違うことである。フランスでは1と4の書き方が日本と大違いなので判読できない。値段や時刻を読み違え、とんだ悲喜劇に見舞われた。

 幸いなことに、いままで現地人とのトラブルに巻き込まれたことはない。強いて言えば、アイスランドのバス停でバスを待っていたとき、隣の現地人から「何国人だ」と聞かれた。日本人だと答えたら、いきなり、えらい剣幕でののしり始めた。アイスランド人は誰でも英語が話せ、しかも流暢だ。ものすごい速さでしゃべるので何と言っているか聞き取れない。「ホエール」という発音が度々聞こえたので捕鯨のことについて文句を言っていたのかも知れない。しかしアイスランド人も鯨を食べるはずなので何とも腑に落ちない。

 もう一つは、騙された話。スロベニアの洞窟に行ったときはアドリア航空を利用した。首都のルブリャーナ空港に着く直前、隣に座っていた現地人が「今日の公定レートは1ドル 220ストールだ」と教えてくれた。小生が聞いたわけでもないのに親切な人だなと、そのときは軽く考えていた。

 空港に着いて荷物が出てくるのを待っていたがとうとう出て来ない。窓口に行って「荷物がない」と言ったら、システムで調べて「まだフランクフルトにある」とのこと。荷物を転送してもらう手続きをしていたら、最終便だったので、もう両替所が閉まってしまった。そのため現地通貨ストールに両替できないまま空港を出た。

 空港のロビーに自動両替機があったので操作してみたが「invalid」の表示が出て使えない。そこでもがいていたら、若者が寄ってきて「それは故障している、両替しようか」と声をかけてきた。まずレートの交渉。1ドル 220ストールで折り合った。100ドル札を出して両替を頼んだら、電灯にかざし、裏表を念入りに確かめ、納得がいったのか、「それではストールを取りに行ってくる」と出かけていった。しばらくして戻ってきたが、「100ドルは大金なのでそれだけのストールがない、もっとレー トを下げてもらえないか」と言ってきた。

 ここで飛行機の中で隣客がレートを教えてくれたのを思い出した。空港職員とグルになって「カモ」と思える乗客が来たときは、この手で利ざやを稼いでいるのだ。今日は 70km 離れた鍾乳洞の入口にあるホテルまでタクシーで行かなければならない。いっそのことタクシー代をドルで払った方が良いと考え、若者を尻目に、タクシー乗り場に行った。運転手と交渉したらドルでOKとのこと。雷鳴のとどろく高速道路を飛ばしてホテルに着いたら、お釣をユーロでくれた。しかし予定していたお釣より少なかったので、この勝負は、タクシー運転手が漁夫の利を得た感じ。

 自作の一人旅の醍醐味はなんといっても、まわりに居るのは現地人ばかりなので、その国の社会がよく見えてくることである。
 口約束だけでも必ず実行される国。必ずクーポンを発行するがクーポンがないと何もしてくれない国。テロ警戒のため乗り物に乗ると乗客全員の顔写真を撮る国。白タクばかりでまともなタクシーがない国。このお堅い国にこんなものがあるのかと驚く国。困っていると必ずお助け舟が出てくる国。その反対にこちらが声をかけなければ他人には一切無関心な国。一度面倒を見たら最後まで責任を持って面倒を見てくれる国。ローカル線の一筆書き切符も正当な理由がないと売ってくれない国。
 などなど、実に様々な国民性があって面白い。是非、自作旅行を楽しんでいただきたい。


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