老人の主張

 何年か前の新聞の川柳欄にこんなやり取りがあった。
  年寄は死んで下さい国のため (若者)
  誰がしたこんな豊な日本に (年寄)

 高齢化問題は、考えるのも・議論するのも気が重いが、65歳を目前にした戦中派にとっては避けて通れない問題である。以下に私なりの考えを述べるが、まだ荒削りなので、これを新聞紙上に発表したら蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろう。だからここだけの話。

 最近、社会保障費がますます増大する一方なので、消費税引き上げ論が飛び交っている。社会保障費が増大する最たる原因は、老人に医療費・介護費をかければかけるほど、平均寿命が延び、年金支出も増えるという悪循環に陥っているからである。幼児死亡率はとっくにゼロ近くになっているので、現在の平均寿命の延びは老人が長寿になったことに起因している。

 統計によれば、一人当たりの医療費は、老人は若者の九倍も使っている。いいかえれば、老人は国民が積み立てた社会保険費を二重に(医療費・介護費と年金で)食いつぶしているのである。しかも老人が現役時代に積み立てた額をはるかに超えて使っている。これでは若者から怨嗟の声が上がっても仕方あるまい。

 そこで、この悪循環を断ち切り、安定的な社会保障制度とするための提言をしたい。 「八十歳以上の老人には治療行為をしない。痛みを和らげる措置のみ」というのはどうか。その代わり八十歳以上は鉄道もタダ、映画館もタダ、などなど。空席で営業しても同じコストがかかるのならタダにしても企業側に負担はかかるまい。

 言い換えれば、「元気な手のかからない老人は、年金しか使わないのだから、いつまでも長生きして人生を楽しんでください。病弱な老人・介護の必要な老人は、医療費と介護費と年金を使うのだから、早く死んで下さい」という意味である。細かいことを言えば、タダで乗っている老人は事故があっても補償しないぐらいの条件は必要であろう。

 病院に行って一番感じるのは老人ばかりだなあということである。薬局でスーパーのレジ袋一杯になるほどの薬をもらってゆく老人や、ケア施設で口に食事を運んでもらっている老人を見ると、「生きたくて生きている」というより「生かされている」という感じを抱くのは私だけだろうか。しかも、認知症老人の場合、本当に本人が生きたいと願っているのか疑問になる。人間の尊厳とは生かすことだけだろうか。「みっともない姿は他人にさらしたくない」 と思う人もいるだろう。

 私の場合で言えば、介護が必要になってまで生きていたくない。もしそうなったら安楽死を望む。そのためには病院が治療行為だけでなく、安楽死の処置もできるようにすべきである。鉄道や高層マンションに迷惑をかけたくないので。

 老人がいるのはケア施設や病院だけではない。家庭で介護を受けている寝たきり老人や認知症老人の数のほうがずっと多いだろう。その介護で、嫁や子供を十年も二十年も縛りつけ人生を台無しにしながら、自分だけ天寿を全うしても成仏はできまい。仏様もお見通しである。

 世代間の関係をギブandテイクの関係で見るならば、先の世代から後の世代へはギブ andギブの関係だと思う。先の世代がギブandテイクを要求したら、後の世代に伝えるもの・残すものがなくなってしまう。冒頭に掲げた年寄の川柳のようにギブand テイクではない。動物の世界では非情なまでにギブandギブである。

 消費税を上げて、医療や介護や年金にあてるというのは一時しのぎに過ぎない。なぜなら、医療技術は日進月歩なので、今は助からない病気でも助かるようになる。すると今以上に長生きする。しかも高度治療となるので医療費も高くなる。よって、医療・介護・年金にかかる費用は雪だるま式に増大する。消費税引き上げ分はじきに食いつぶされ、また消費税を上げなければならないというイタチゴッコになる。

 最近、かかりつけの病院に行くと、「○○の予防注射や○○の検診を受けてみたら」と勧められる事が多くなった。まるで、病院の営業戦略として、老人をターゲットにしているようだ。そのほとんどが65歳以上の人には市から補助が出るとのこと。「ヘー、そんなことにまで役所が補助をしているのか。ますます老人が長生きするじゃないか」と驚くことが多い。

 いつも同じ先生に診てもらっているので言いづらいが、いつかは、「私はこういう考えなので、そんなに心配してくれなくて結構ですよ」と伝えようと思っている。

 安定的に永続できる制度とするためには、老人人口の総量規制をするしかない。船が沈没しそうになったとき、老人が船に残り、子供やまだ子供を生む若い女性を優先的に救命ボートに移すのは古今東西のならいである。船を社会保障費に置き換えれば、わが提言も常識の範囲といえるであろう。

 当方ももうじき老人世代に入るのだから、こういう提言をしても「自分に関係ないことだと思って無責任なこと言ってやがる」というような後ろ指はさされまい。このままでは日本が、老人に食いつぶされてしまう。

(注)本文は当方がまだ63歳のころ(2005年)、会社の社内報のテーマが「ここだけの話」のときに投稿したものである。

 

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