沼尻元湯考

沼尻元湯の温泉群
 沼尻元湯とは、安達太良山の西側にある沼ノ平(元の爆裂火口)から流れ出す沢に沿って点在する温泉群である。この流域は火山性ガスによる死者も出ているほどなので無風時には近寄らない方がよい。 上流から①川湯、②洞窟湯、③ゴルジュ湯、④滝湯があり、なかなか素晴らしい野湯システムを形成 している(地図02)。沼尻元湯には何度も行っているが、このページは2012年10月に作成したものである。

                     地図02 沼尻元湯の野湯システム

 ①の川湯は硫黄採取小屋の上流にある川湯で誰でも知っている(写真04)。これは両岸から湧き出した湯が川に流れ込んだ結果であり、成因に特に疑問はない。

            写真04 ①川湯

 しかし②~④までの湯の成因がどうしても腑に落ちないのである。②の洞窟湯は、登山道を上流に向かって歩いてゆくと、左側にあった沢が右側に移る地点がある。沢を橋で渡らないのに沢が登山道の左から右に移るのは変だなと思って降りてみたら、川が洞窟となって登山道の下を横切っていた。
 まず、巨大な岩がブリッジのようにかぶさっている下を通過する。その岩の下が湯船状になっている ので、仮に窟屋の湯と名付ける(写真06)。

                写真06 窟屋の湯
 これを通過するとすぐ下流に洞窟があり、その洞窟内を洞窟湯(写真08)と呼ぶ。その洞窟は直径4~5mはあり、硬い溶岩流を貫いているもので、とても川の浸食作用でできたものとは思えない。洞窟内の壁を丹念に調べながら進んだら、洞壁に削岩機であけた穴の跡が並んでいたので人工的に作った洞窟であることが分かる。

           写真08 ②洞窟湯
 なお、窟屋の湯も洞窟湯もそこでお湯が湧いているわけではなく、流れている沢水が暖かいので湯 と呼ばれているだけである。

 洞窟を下流側に抜け、暖かい沢水の中を下ってゆくと、川がスパッと5mほどの垂直な壁で落ち込み、その下が湯だまりになっているところがある。その湯だまりの両側も垂直な壁となっているので、人工的に作った段差であることは見え見えである。この湯だまりが③ゴルジュ湯と呼ばれているが、ここで 湯が湧きだしているわけではない。

 ④の湯滝は、白糸の滝の下流、左岸の岩壁にあいた穴(川床から40mぐらい上)から湯が流れ下って いる(写真10)。ここに行くには白糸の滝を見下ろす登山道から、崩れやすい急斜面を沢筋まで下る必 要があるのでかなり緊張する。

       写真10 ④湯滝を見上げる
 その湯滝の下にだれが作ったか小さな湯だまりがあり、野湯となっている。岩壁の途中に穴があき、水が流れ出る現象はカルスト地形にはあるが、溶岩流の岩壁で一箇所の穴から水が流れ出すことは通常考えられない。溶岩流の岩壁なら富士の白糸の滝のように、溶岩層の境目から幅広く流出するはずである。なんとも不思議な洞窟である。

 成因が不明な洞窟を見かけるとどうしても入りたくなるのがケイバー(洞窟探検家)の性である。湯滝の高さは5mほどで、滝の左側の壁にフリーで登れそうな手がかりがある。登ってみたら途中の岩が浮いており、慎重に三点確保を繰り返しながら洞口に達した。 洞窟に入ってみたら、入り口付近には支保工も残っていたので、ここも明らかに人工的に作った洞窟であることが分かった(写真12)。

        写真12(④湯滝洞口内の支保工)
 洞口のすぐ内側にも浅い湯だまりがあり寝湯ができる。この位置から外を見ると天空に浮いた温泉という感じがする。奥に伸びる洞窟には温泉が流れ、人が十分歩けるほど大きい。この温泉でも寝湯できる。機会があったら奥まで歩いてみたい

 以上を総合すると②③④とも人工構築物である。では何でこんなものを作ったのか。それは、硫黄鉱山の採掘が進み、坑道がだんだん深くなり、坑内に川の水が沁みだして来るようになったので、川の水位を下げる必要に迫られたからではなかろうか。昔は、あの硬い溶岩流の上を湯川が流れていたはずである。溶岩流が特に厚いところは洞窟を掘り、そうでないところは溶岩流を掘り下げて溝とした。③のゴルジュは、坑道の水はけが思うように進まないので、沢の位置を下げるため、一気に段差をつけて深くしたものと思われる。

 たまたま出合った地元の物知りに聞いたところ、「湯滝の穴は坑道の水抜き穴の水を流しているところだ。昔は水だったが、最近、だんだん温度が上がりお湯になった」と話してくれた。とすると沼尻元湯には網の目のように坑道が走り、まだ知られてい ない野湯も隠れていそうである。

 

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