マッターホルンを眺める山旅

 2014年10月、スイスに行ったついでに、Google Earth を使って自分独自で選んだ、マッターホルンが良く見える山道で最後は氷河の上に出られるコースをハイキングした(写真01)。 Google Earth の高度を下げてゆくと踏跡まで認識できるのでこういう芸当が可能である。
 コースはツェルマット→ゴルナグラート→リッフェル湖→ゴルナー氷河谷→モンテローザ分岐→氷河→モンテローザ分岐→ゴルナー稜線→ゴルナグラート→ツェルマットである。

                  写真01 ハイキングコース全容

 マッターホルンのモルゲンロートを見るため、ツェルマットの宿はマッターホルンが見える部屋をとった。目覚ましを7:00 にセットして、マッターホルンに徐々に日が差してくる様子を見ていた。この程度のモルゲンロートになったのは 7:39 だった(写真02)。

       写真 02 マッターホルンのモルゲンロート

 それからホテルのレストランで朝食を済ませ、日帰り用の軽い荷物を背負ってツェルマット駅まで歩いた。道は登山電車の線路の脇を通って行くので、これから乗る列車がすでに入線しているのが見える。列車はツェルマット 8:48発→ゴルナグラート9:21着の電車である。
 スイスパスを提示して割引料金で切符を買う。電車に乗り込んでみたら床が階段状になっている。それほど傾斜が急なのであろう。10月ともなると電車も空いている。電車が出発してしばらくの間はマッターホルンが見える右側の席に座っていたが、やはり鉄道屋の血が騒ぐのか、電車の先頭に行って写真を撮ることにした。

 ラックレールがあるので分岐器の構造は複雑だった。各駅には必ず逸走防止用の安全側線がある。枕木の構造は場所によって異なっていた。Vの字型になった枕木も設置してあったが、どういうメリットがあるのだろう。あとで軌道構造の専門家に聞いたら横移動防止のためとのこと。線路の勾配標の写真を撮りたかったのだが、どこに建植されているのかとうとう分からなかった。麓側1/3ぐらいは単線だが、それより上は複線になっている。運転室の計器も字は読めないが、何を表示しているのか概ね見当がついた。運転士は女性だった。突然、進行方向正面にマッターホルンが見えてきた。やはりこれは感動的だ(写真03)。

  写真03 マッターホルンが正面に見えてきた

 ゴルナグラートに着いてぞろぞろ下車する。早速外に出て記念撮影。中国人が多いのに驚いた。中国人の集団は騒々しくて困る。正面にはマッターホルン、左手眼下にはゴルナー氷河が雄大に流れ下っている。
 降りた客の大半が一駅下のリッフェル湖までハイキングしているようだ。大勢の人が歩くので道は舗装されてはいないがトラックが通れるほど広い。これではつまらんと左手の岩が積み重なった尾根道を下って行ったら、マッターホルンとリッフェル峰が一直線に重なる素晴らしい写真04が撮れた。

      写真04 最高のマッターホルン

 岩のゴロゴロした道を下っていたら、昨夜のあられで岩が濡れており、滑った拍子に手をついたら、思いのほか深い擦り傷を作ってしまった。持参の救急用品で仮手当。これに懲りてトラック道に戻った。

 リッフェル湖に着いた時には同じ電車の観光客は大半引き揚げた後だったので静かな雰囲気の湖を楽しめた。まさに怪我の功名というところか。まず定番の、リッフェル湖に映る逆さマッターホルンを撮る(写真05)。この逆さホルンは朝早い時の方が湖に波が立たないので、きれいな逆さホルンが撮れるそうだ。

         写真05 定番の逆さマッターホルン

 さてここからが本番のハイキングだ。リッフェル湖から少し引き返し、11:09 尾根を乗り越えて、隣のゴルナー氷河が流れる谷に下りて行く(写真06)。この小さな写真では分からないが、対岸遠くの露岩の上にモンテローザヒュッテが見えている。

        写真06 ゴルナー氷河に降りてゆく山道

 下るにしたがってだんだん氷河も近付いて来る(写真07)。氷河に刻まれた水流の跡も面白い(写真08)。正面のゴルナー氷河の大クレバス地帯も迫力を増す(写真08-2)。高山植物も咲いている(写真09)。

         写真07 氷河もだんだん近づいてくる

         写真08 氷河に刻まれた水紋が面白い

      写真08-2 ゴルナー氷河のクレバスもすごさを増す

           写真09 高山植物も咲いている

 いよいよ今回の目的地、岩盤が氷河で削られた、つるつるの巨大な岩(研磨岩)が見えてきた。事前に調べてきた情報では、この研磨岩を下ると橋があり、それを渡って岩場を登って行くと氷河にぶつかるとのことだったので、休んでいたスイス人ご夫妻に下に降りるルートを聞いたら、奥さんが連れて行ってくれたところは、太いロープが下がっている垂直な崖だった(写真11)。

         写真11 垂直な壁にかかったロープ

 壁の高さは20mぐらいある。これは無理だと思ったが、ロープにつかまって最初の足場まで降りてみた。それから先は素人には手が出ない。「Very difficult」と言って戻ってきたら奥さんも笑っていた。ご夫妻もあきらめたそうだ。
 しかたないので研磨岩の上で昼食。ゴルナグラート駅のキヨスクで買ったサンドイッチだが、パンに水分が少なくパサパサしていてあまりうまくない。 1/3ほど食べ残してしまった。

 昼食後、他に、下に降りるルートはないか探してみたら、あった、あった。研磨岩の別の端までいくと、アルミの梯子2本と橋が見えた(写真12)。喜び勇んで降りて行った。 アルミの梯子で約20mの岩壁を下り、氷河から流れ出した小さな流れをアルミの橋で渡る。このルートはモンテローザヒュッテに行くメインのルー トなので、設備がしっかりしている。

     写真12 垂直な梯子と流れを渡る橋

 梯子はボルトで固定されており、橋も手すりまでついている。橋を渡ってからしばらく写真13のような斜面を登ったが、なかなか氷河に到達しないので、時間的制約もあり、引き返すことにした。

   写真13 橋を渡りモンテローザ側の斜面を登る

 帰りに梯子を登り返していたら、梯子の下の岩盤に素晴らしい地層が現れている(写真14)。残念ながら専門知識がないので、その成因やどういう鉱物が含まれているのか分からない。

       写真14 梯子のある岩壁のカラフルな地層

 研磨岩に戻り13:30帰路についた。研磨岩の頂上にはリッフェル湖へ55分という道標が建っていた。ここの標高は2649mとのこと。これから登るゴルナグラートの稜線は3090mなので約440mの高低差がある。その勾配は写真15を右側に登ってゆく斜面である。

           写真15 最後の急登を開始

 マッターホルンは午後になるとイタリア側(左側)から雲が湧いてくる。急な斜面をゆっくりゆっくり登って行くと、登山道わきに小動物の巣らしきものがあちこちにある。1時間45分の登りでゴルナグラートに続く稜線に飛び出した。それから15分ほど稜線を歩いてゴルナグラートのホテルの後ろにあるピークに戻った(写真16)、15:28着。

         写真16 ゴルナグラートの山上ホテル

 ここが最後の展望場所なので食べ残したサンドイッチを食べていたら、くちばしの黄色い黒い鳥(鳩ぐらいの大きさ)が集まってきた。観光客が多いので鳩のように人慣れしている(写真17)。

           写真17 人慣れした黒い鳥

ここでゴルナー氷河も見納めである。じっと瞼に焼き付けた(写真18)。

      写真18 モンテローザから流れ下るゴルナー氷河

(ハイキング コースタイム まとめ)
 ゴルナグラート9:40→10:30リッフェルゼー10:35→10:50ローテンボーデン 11:00→11:10谷への降り口→11:45ゴルナへの登り口→12:10研磨岩13:30→13:58ゴルナ登り口→15:15稜線→15:30ゴルナグラート頂上

 今にして思うと、研磨岩でスイス人夫妻の「降りる道はない」という誤情報がなければ、氷河の上まで行けたかもしれない。残念なことをした。

 16:19発の電車でゴルナグラート駅を後にした。もうこの時間になると登山電車もガラガラだった。黄色く色づいた林を眺めながらツェルマットには17:02に着いた。
 まだ夕食には早いがホテルに入る前に食事を済まそうと、駅前のビストロに入ったら、食事は18:00からとのこと。ビールを頼んで18:00まで時間をつぶす。 ビストロで飲んでいた客は18:00になるとサッと引き上げ、当方だけが残った。スパゲッティらしきものを注文してビールを飲み続けて待つ。スパゲッティはボリュームも適当でうまかった。レストランより一品料理の注文で済ませられるビストロの方が利用しやすい。
 ホテルに戻った後、明日は早い列車に乗るので今晩中に清算をしておこうとフロントに行ったら、フロントのおばさんが当方の話を半分も聞かないうちに「It's good idea!」と理解してくれた。このおばさんは日本人を相当扱いなれているのだろう。

 

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