世界遺産ゼメリング鉄道

 2013年8月、ゼメリング鉄道に乗りに出かけた。せっかくウイーンに行ったのに夏はオペラをやっていないので、オペラ座の内部を見られなかった。

前日
 ウイーンのフランツヨゼフ駅前のホテル・モー ツァルト(写真02)に、19:00 ごろチェックイン。

        写真02 駅前のホテル・モーツァルト

 このホテルは2泊する予定で3月末に予約した。宿泊する日の24時間前までなら無料でキャンセル可能だと言うのに、すぐに宿泊費1泊分をVISAカードから引き落としたので、怪しからんと抗議のメールを送ったのに返事もなかったホテルだ。
 フロントでその旨を説明しVISAカードの引き落とし書類も見せた。特に陳謝もなかったが、その罪滅ぼしの意味か、指定された部屋は値段(45ユーロ/泊)のわりにゴージャスな部屋だった。部屋も大きく、バスタブもついている。

 20時近くなってから食事に出た。偶然にも隣が和食屋だった。店の名前はAKAKIKO(写真04)という。どう読んでも和食とは縁がなそうな名前だ。入ってみたらマスターは中国人でウエイターも中国の留学生だった。鮭弁当セットを頼んだら、大きめの深い皿に「misoスープ」という名前で、味噌汁だけが先に出てきたのには驚いた。味は良かったが、まるで西洋料理のスープの扱いだ。
 それを飲み終えたら、大きめのお重に鮭がたくさんのった弁当が出てきた。日本なら鮭をこの半分ぐらいにして、3品ぐらいの惣菜をつけるのだが。

          写真04 隣の和食屋アカキコ

 店を出るとき、中国人なら中国語が通じるはずだと、「味噌汁は弁当と一緒に持ってくるのが日本の習慣だ」と中国語で紙に書いて渡したが、「あ、そうですか」とも言わなかった。「ここはあなたの店か」と聞いてみたら、雇われマスターで経営者は別に居るとのこと。経営者は何国人かと聞いたら、オー ストリア人だと思うと言っていた。

 店を出たら21時近くなっていたが、明日乗るゼメリング鉄道の始発駅ウィーン・マイドリング(WienMeidring)駅までのルートを調べに行った。明日の列車は 8:00発と早いので、ルートを間違えないよう下見をしておく必要があるからだ。 山村君からもらったウイーンの市内図を頼りに地下鉄6号線の最寄駅まで歩いた。距離は結構あり20分近くかかった。飲み屋街ではなくビジネス街だったので駅前は暗かった。地下鉄とは言えここでは高架になっていた。

 苦手の自動券売機だ。ドイツ語なので操作方法がわからない。切符を買いに来た人に駅名を示して買ってもらった。ホームのベンチに子供を連れた奥さんが座っていたので、駅名を示して「いくつ目の駅か」と聞いたら、「7つめだ」と教えてくれた。時刻表を見たら列車は10分間隔ぐらいで走っていた。面白いのは金土の夜は終夜運転になっていた。西洋人は夜更しなんだね。

 電車が入ってきた。目の前の車両には移民らしき顔つきが多かったら、先ほどの親子連れは大急ぎで前の車両に駆けて行って乗り込んでいた。移民は嫌われているようだ。電車に乗ると、次の停車駅が大きな文字で表示されている。これをしっかり見ていれば大丈夫だ。

 マイドリング駅で降りて階段を1つ上がったら、もうOBB(オーストリア国鉄)のマイドリング駅だ。ウイーンの地下鉄はそんなに深いところを走っているのではなさそうだ。
 早速、有人切符売り場に行って乗車列車の発時刻を書いた紙を示して往復を買った。やれやれホッと一息。すぐ帰りの地下鉄に乗った。成昆鉄道のように現地人から話しかけられることもない。西洋は個人主義が徹底しているのか。地下鉄を降りてホテルまで歩く間、ビストロ風の飲み屋に入ってみたが、女の子が、常連のグループ客のテーブルに行きっぱなしで面白くないのでビール一本で出た。ホテルに着いたのは23時近くなっていた。

第一日(晴れ)
 昨日、予行演習で乗った地下鉄U6を使ってマイドリング駅に向かう。列車は 8:03発なので朝食を食べずに6:30ごろホテルを飛び出した。約20分かけて地下鉄駅まで歩く。切符の自動販売機は言葉がよく分からないまま押して料金を入れたら切符が出てきた。ホームに上がって発車標を見たら「あと何分でどこ行きがくる」という表示になっていた(写真06)。これもひとつのアイデアだ。 この時間ではまだ乗客も少ない。

          写真 06 ウイーン地下鉄の発車標

 マイドリング駅に着いたら8:03発はスロベニアのルブリャーナ行き特急なので東欧に行く長距離客が結構いる。日本人の家族連れにも2組出会った。パック旅行ではなさそうなのでかなり旅慣れているのだろう。そのほかハイキングスタイルの客もかなりいて込み合っていた。

       写真08 ルブリャーナ行き特急

 ホームに上がったら既に列車が入っていた(写真08)。切符に指定された車両に乗り込んだら、コンパートメント式の座席車だった。通路との仕切りはガラス張りなので圧迫感はない。6人用のコンパートメントだったが乗客はほかに2人だけだった。朝が早かったせいか出発したら直に眠くなってきて気がついたら目的地(ゼメリング)の 少し手前だった。乗り越さなくてよかった。

 ゼメリング駅でかなりの数のハイカーが降りた。ゼメリング鉄道遊歩道がこんなに人気があるとは思わなかった。ゼメリング駅は、今は無人駅だが、堂々たる構えの本格的な駅だった(写真10)。
 駅構内には当時の車両も展示されている。駅のコンコースと待合室を使ってゼメリング鉄道ミュージアムが設置されている。ほとんどのハイカーはさっと見ただけで出発していったが、外国人であることが見え見えの当方は博物館長(元のゼメリング駅長)と思しき人につかまり、パンフレットを渡され説明を始めるので、30分ほど遅れて駅を出発(9:35)した。駅の標高は896m、駅の下り側 のトンネルは単線2本の構造となっていた。駅舎の全景は(写真 10)。

          写真10 ゼメリング駅の駅舎

 ハイカーはすでに誰も見えなくなっているので道標を頼りに線路沿いを進む。遊歩道はおおむね線路に沿ってウイーン側に戻るように続いている。まずは一番景色のよいドッペル展望台を目指す。最初のトンネルの手前で地下道を通って線路の右側に移る。
 道はよく整備されているので家族連れのハイカーでも大丈夫だ。上から鉄道の音が聞こえるので見上げたら、ここにも石積みのめがね橋があり、その上を貨物列車が走っていた。
 前方に大きなホテルが見えてきた。こんな大きなホテルが営業できるほど観光客が多いのかね。この付近はスキー場があるのでスキー客用のホテルかもしれない。30分ほど歩いたら自動車道路に出会ったが、そこにWolf----駅があった。ここは鈍行しか止まらない中間駅だ(写真16)。

         写真16 中間駅の Wolf----駅

 黄色い道標に導かれてまた遊歩道に入る。10:26いよいよドッペル展望台に着いた(写真18)。ゼメリング鉄道全体を俯瞰できる展望台として有名なところだ。

       写真18 ドッペル展望台

 ゼメリング鉄道は石積みのアーチ橋とトンネルを多用して、始めてアルプスを越えた鉄道として世界遺産にも登録されている。それだけに見物客(ハイカー)も多いのだろう。アルプスと言っても、ウイーンの南側を走るアルプス山脈の末端を越えているだけなので、スイスのように高い山を越えるわけではない。最高地点でも標高は900m程度だ。 この展望台からはその核心部分となる、石灰岩の岩壁の下に作られたアーチ橋やトンネルが続いている線路が見られる(写真20)。

               写真20 展望台からの雄大な眺め

 谷を挟んで前面に横幅広くそれらが続いているので、展望は左右150度ぐらいあり、とても一枚 の写真には納まらない。1860年ごろによくもまあこの大工事をする気になったものだと感心する。

 残念ながらここからは最大のアーチ橋:カルテリンネ(二段積みで上層10連、下層4連)は木立に隠れて見えない。展望台に高齢のご夫婦が登ってきたので挨拶を交わして先を急ぐ。

 いよいよ、最大のアーチ橋が見えるボルグスベルグ(Wulfsbergkg)展望台に着いた、10:54。先客が「ああでもない、こうでもないと」とさかんにカメラアングルを相談しながら写真を撮ってい た(写真22)。

         写真22 ボルグスベルグ展望台

 カルテリンネは本来は2層のアーチ橋だが下層は木立に隠れて見えない(写真24)。その右側に絶壁の下をトンネルで抜ける線路も見える(写真26)。

写真24 展望台から見えるカルテリンネ(列車が走っているのに注意)

 

   写真26 絶壁の下をトンネルで抜ける

 写真26 の向かって右側のトンネルは長さ10mぐらいしかない世界でいちばん短いトンネルとして有名だが、日本の吾妻線にはこれより短いトンネルがある。その線路を右側にたどってゆくと、これから向かう、鈍行しか停まらない中間駅ブライテンシュタイン駅が見えてくる。ちょうど列車が通過しているところだ(写真 28)。

     写真 28 今日のゴール:ブライテンシュタイン駅

 ここからまた林の中の遊歩道を進むと自動車道路に合流する。案内図ではこの自動車道路を横切って遊歩道が続いているはずだが、自動車道路の向こう側には遊歩道が見えない。下に行くか上に行くか迷ったが、上に行ったら遊歩道が右側に続いていた。
 林の中の道なので何も見えないが遠く近くから鉄道の音が響いてくる。ゼメリング線は幹線なので上下列車が頻繁に走っているようだ。
 道路の右側に大きなレンガの煙突がある、ごみ焼却場のような建物のところで右側の遊歩道に入る。しばらく進むと下をトンネルが横切っている。そこにある民家が簡単なレストランになっているので、冷たいものを飲みながら列車が通るのを見物できるようになっている。

 その民家兼レストランからだらだら下ってゆくと、これも有名な石積みアーチ橋:フライシュマン(Fleischmann-Viadukt)橋がみえてきた(写真30)。この橋は一層なので高さはさほどではないが長さは結構ある。カーブしながら牧場の上を越えていた。その道端に湧き出していた水の水温を計ったら、8月にもかかわらず5℃と冷たいので驚いた。さすがアルプスだ。

       写真30 一層だが長いフライッシュマン橋

 その橋の下をくぐり民家の脇を通ったら日本で言う照る照る坊主のような風船が木にぶら下がっていた(写真32)。

       写真32 オーストリアのてるてる坊主?

 ここからは線路の左側の急な山道を登ってゆく。一汗かくころ線路の上の急斜面に達し、落石防護網が張られている。ちょうど快速列車(Railjet)が走ってきた。この防護網の頂上に達したところにベンチがあり、先ほど下を潜り抜けてきたアーチ橋を見下ろしながら一休みできるようになっている(写真34)。至れりつくせりだ。

     写真34フライッシュマン橋を見下ろす休み場所
 ここからは軽い上下を繰り返しながらカルテリンネまでだらだら下ってゆく(写真36)。

       写真36 線路につかず離れず行く遊歩道

 道端には花もいろいろ咲いているが、標高が低いので高山植物ではないだろう。いよいよカルテリンネがよく見えるところで列車が通るのを待つ。現れたのは3両連結の鈍行列車だった(写真38)。

        写真38 ついにカルテリンネに着いた

 この絶景ポイントでもカルテリンネの下層が見えないのが残念だ。カルテリンネの左上に民家のような建物が見えるので行ってみたら、そこも民家兼レストランになっていた。ちょうど橋の正面になる斜面に建っているだけあって眺めはよかった。犬が一人で店番をしていたが、人が来ても吼えないので、店主に伝わらないだろう。おとなしそうな白と黒がブチになった犬だった。
 そこから急斜面を下るといよいよカルテリンネ の下に着いた(13:18)。予定より1時間半ほど遅 れている。暑いのでたっぷり休んだのが原因だろう。二層のアーチ橋だけあって高さはかなりある(写真40)。

       写真40 カルテリンネは二層構造のアーチ橋

 下を潜り抜け背景の石灰岸壁を入れて写真を撮る。ここで橋を渡る列車を入れた動画を撮りたいので、二層のアーチ橋を正面から見ながら、一服つけて列車を待つ。列車が来たので動画を撮ったがパンタグラフが移動している動画しか撮れなかった。あきらめて13:40出発。

 少し自動車道路を下ると数軒の民家があり、カルテリンネ通りという看板が建っていたのには驚いた。ここからゴールのブラインシュタイン(Breinstein)駅に登るのだが、カルテリンネで長居しすぎたようで、13:50発の鈍行に間に合わない。この駅は鈍行しか停まらないので次の鈍行は15:50だ。バスはないかと道路わきの標識類を一生懸命探したがそれらしきものは見当たらない。

 しかたなしにブラインシュタイン駅まで近道と書いてある山道を15分ほど登ったらやっと駅に着いた14:33(写真42)。とは言っても、この道は下りホームに通じる道だったので、駅本屋に行くには少し戻って別の道を登り、駅構内の反対側にある踏切を渡っていかなければならない構造になっていた。やっかいな駅だ。

      写真42 ブラインシュタイン駅(前方が下り側)

 暑いので、そんなに大回りするのも億劫だと、鉄道員がやる「右よし・左よし」と指差し確認をして、線路を横断し、上りホームに渡った。
 ここでボケッと1時間半も待つのは大変なので、駅に貼ってある時刻表をたよりに、下り列車でゼメリングまで行き、ゼメリングから上りの快速列車でウイーンまで行く方法を読んでみた。それだとブラインシュタイン駅を15:00の鈍行に乗ればよいことが分かった。
 また下りホームに移動して列車が来るのを待っていたら、かなり頻繁に上下列車が通る。いろいろな形式の車両が通過してゆく。貨物列車は単機の場合は14 両程度、重連の場合は21両程度だった。

 ゼメリング駅で16:40発の上り快速列車に乗った。快速列車の最後部車両に乗ったら、乗客は当方一人だけで、隣のコンパートメントは車掌スタッフが荷物置き場に利用していた。こんなに空いていて、OBB(オーストリア国鉄)の営業収支は大丈夫なのだろうか。他人事ながら心配になる。

 

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