立石の大穴(福島県)


 2003年12月、福島県にある立石の大穴で調査ケイビングを行った。参加者は3 人。今回は医学部の先生からの依頼で、蝙蝠が媒介しているかもしれない感染症の研究のための資料として、グアノ(蝙蝠の糞)を採取するのが目的である。
 鹿島町には車で8:00着。教育委員会の方から大穴の鍵を借りた。我々の体型を見て「これなら狭洞は突破できそうだ」と笑っていた。

 9:30ごろ大穴洞口着。洞内を汚さないため、まず入洞前に全員が小便を抜く。大穴は2000mもある長い鍾乳洞なので、最奥まで往復すると4時間ぐらいかかるからだ。10:00に入洞開始(写真01)。

           写真01 入洞開始

入口付近にはキクガシラ蝙蝠がぶらさがっていた(写真02)。

       写真02 洞口付近のキクガシラコウモリ

 秩父でよく見かけるコキクガシラより大型で顔も可愛い。鉄梯子で5mほど下ると旧洞の大ホールだ。そこから左手に大きく迂回して進むと、新洞への入り口の鉄格子(写真03)だ。この鉄格子は、危険防止のため、一般人が狭洞部まで入らないようにするためのものだ。

         写真03 新洞入り口の鉄格子

 この鉄格子の鍵が開けられなければ奥に行けないので、うまく開くかどうかが心配だったが、最近鍵を変えたとのことで錆ついておらず、すぐ開いた。錆つき対策のため油も持ってきたのだが。

 ここから先は直径50cmぐらいの穴でかなり狭い。幾つかの小部屋を抜けると、問題の最狭部(写真04)についた。狭洞部分は、かなりの風速で奥に向かって風が吹き込んでいた。穴の直径はちょうど人の胴体の太さで、長さは2mぐらいのもの。穴はその前後で直角に曲がっている。

         写真04 最狭部に体ごと突っ込む

 体の太さの穴なので、両手・両足を伸ばして頭から突っ込む。したがって、推進力は洞壁の凹凸をつま先で蹴って得るしかない。ほんの僅かずつ前に進む。手が狭洞の出口に達すると、先行者が手をもって引きずり出してくれる。どうやら当方も通過できた。

 狭洞を抜けたところのホールは「喜びの間」という名前。この天井の上に地底湖のある上層があるというのだから、ちょっと信じがたい構造だ。今、這い出してきた狭洞の上を通るように坂道を登り、峠を越すと真野の峡谷に下って行く。
 落盤の大石が乱雑に積もった中を進むと、左手に、地底湖(エメラルドの泉)に続く支洞が分かれる。といっても、その支洞は5mほど上なので見えない。
 その少し先で崩落した大岩の隙間を登る(写真05)。そこを通過すると「長寿の泉」というリムス トーンプールがあり、メナシヨコエビがいると言うことだが存在を確認できなかった。

          写真05 大岩の隙間を登る

 四辻へは、床が砂となった天井の低いところを這いぬけて行く。以前入洞したとき、こんなところがあったかなという感じだ。当方の記憶力も大したことなし。 四辻からコウモリの館までは大きな洞で、洞内カルストと呼ばれる穴もある(写真06)。

        写真 06 洞内カルストと呼ばれる穴

「コウモリの館」はコキクガシラ蝙蝠のコロニーで、天井一杯に蝙蝠がぶら下がっている(写真07)。その下で所定の容器にグアノを採取(写真08)。何度も経験しているだけあって手馴れたものだ。

     写真07 天井一杯のコキクガシラ蝙蝠のコロニー

       写真 08 コロニーの下でグアノを採取

 ここで、洞窟は下層ルートと上層ルートに分かれる。グアノ採取があるので上層ルートに入る。そこにはグアノの山があった(写真09)。

      写真09 天井の穴から落ちてきたグアノの山
 グアノの山の上の天井には竪穴があいているだけでコウモリは居ない。多分、この竪穴の上にホールがあり、そこにコウモリの大群が居るのであろう。ここでもまたグアノを採取。

 曲がりくねった上層を行くと、穴は垂直に4mの段差を下る。ここは、以前は、固定ザイルが取り付けられていたのだが無くなっていた。帰りにフリーで登れるか心配だったが、仲間がいるのでためらうことなく下った。
 主洞の終点である「東の物見」に着いた(写真10)。

            写真 10 東の物見

 ここは下層の終点にある「黄泉の窟」と呼ばれている大ホールの壁の途中に、窓のように開いた所だ。仲間が持ってきた強力ライトで対岸の壁を照らすと、遠く離れた対岸の垂直な壁に黒い穴が開き、細い滝が落ちていた。この穴は「鬼のはらわた」支洞と呼ばれている。SRT装備を置いてきたのでここは下りられない。見物しただけで引き返す。

 行きにフリーで下った4mの段差についた。当方が何度トライしても登れない。見かねた一番若い仲間がスルスルと登り、ザイルを降ろしてくれた。技術力の差を見せつけられた。
 昼食の時、「狭洞の奥にいるコウモリはどこを通って外に出ているのだろう」と話題になった。狭洞を通過した時、風は奥に向かって吹き込んでいたので、今日我々が通ってきた通路以外に、奥部から直接外界に出る穴があるのだろうということになった。

 時間があったので入り口付近の三途の川支洞にも行ってみた。少量の水流があり、床面はずっとリムストーンで覆われた支洞だ。高さは少し前かがみになれば立って歩けるほどで、幅は人の幅の2倍ぐらい。風は奥から吹き出していた。  どこまで行っても同じような穴なので適当なところで引き返した。そのとき、蝙蝠が凄いスピードで脇を通りぬけて行った。中には当方の身体にぶつかるヤツもいる。蝙蝠は超音波を発射して物体の位置をつかみ、決して洞壁などにはぶつからないと思っていたのだが。
 14:30出洞。たまたま狭洞の話になり、「もし狭洞より奥で怪我人でも出たらどうするのだろう。とても運び出せないね」ということになった。今回怪我もなく、無事出洞できたことを改めて喜んだ。

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