山北のお峰入り

 「山北のお峰入り」とは、神奈川県山北町の共和地区に伝わる、山伏の修験道を主題とした民俗行事で、2022年にユネスコの無形文化遺産に登録され、がぜん有名になった。ユネスコに登録されたことを祝って、できるだけ多くの人が見られるように、2023.10.8に山北町の小学校で一般公開された。
 神奈川県に住んでいるのに、こういう民俗行事があるとは知らなかったので、さっそく見に行った。通常は共和地区の氏神様(神明社:標高500m)で行われるのだが、場所が大野山の頂上に近いことから、大勢の人を収容するスペースがないので、山北町の平地にある小学校校庭での開催となった。

 御殿場線の山北駅から会場の小学校まで20分ほど歩いたが、要所要所にお峰入り保存会の人や警察官が立ち、誘導してくれたので迷わず小学校にたどり着いた。入り口で入場料を払ったら「山北のお峰入り」という写真が豊富なパンフレットをくれた。このパンフレットは山北町教育委員会と神奈川県教育委員会が編纂したもので、実に要領よく、わかりやすく書かれていたので、お峰入りの行列が入場してくるまでに、アウトラインを頭に入れることができた。

 校庭脇にはテレビ局や新聞社の取材班も多数詰めかけ、プロ用のカメラやビデオで撮影していた。
まず最初にお峰入り行列の参加者全員が横一列にならび、司会がマイクで紹介していた。出演者81人が一列に並ぶと壮観である(写真01)。

                  写真01(お峰入りの出演者勢ぞろい)

・この行事が始まったのは南北朝時代(約700年前)と伝承されているが、この行事が記録として残っているのは、幕末の1863年以降とのこと。
・お峰入り行列は81人で構成され、参加者はそれぞれ決まった役をもっている。
・各役の所作やセリフは文字であらわした教本はなく、代々、口頭で伝えられているとのこと。
・共和地区という限られた地域から81人の踊り手を出すのは大変だったので、せいぜい5年に1回ぐらいしか開催できなかったと推定されている。
・最近は高齢化が進み、行列に参加できないという人も増えてきたので、この行事の歴史を絶やしたくないと、他地域から移住してきてくれた若者も6人ほどいるとのこと。

 いよいよ笛と太鼓の囃しに合わせてお峰入りの行列が入ってきた。司会の人がこれを道行といいますと紹介していた。太鼓は前の人が背負い、後ろの人がたたきながら歩いていく。笛の吹き手は花笠をかぶっている。

この行列に含まれるすべての役を紹介すると長くなるので、以下、主だった役のみを紹介する。

・先頭は槍を持った天狗と獅子、次に赤い衣の行者4人(写真02)。
・ついで「神明社氏子一同」という旗持ち(写真02)。
・次は白装束に赤いたすきの、6人一組の棒踊り隊(写真03)。棒を担いで中腰で手を振りながら歩くので、大層疲れるだろう。この棒踊り隊は、道行が終わると中央で棒踊りを披露する。

     写真03(毛槍隊と棒踊り隊)        写真02(先頭は天狗と獅子、赤衣の修験者)

・にぎやかな造花でかざった傘を持った6人組の花笠隊。
・その次は6年生ぐらいの子2人が、赤い笈を背負って、中腰で前傾姿勢で一生懸命手を振って歩いてゆく。どういう役回りだかわからないが、あの姿勢で歩いてゆくのは疲れるだろう。
・その次は6人組の弓矢隊。
・次は長持ちを背負った2人組。
なんだか、この辺は大名行列の要素をまねているみたいだ。

    写真05(神輿を担ぐ白装束の神職)         写真04(萌黄の直垂で進むお公家様)

・次は、萌黄色の直垂を付けたお公家様6人(写真04)と、白装束の神職がかつぐ神輿(写真05)。
・槍、なぎなたを持った警護部隊

 ここらで入場行進(道行)の列も終わり、会場中央で各役の演技が始まる。
・最初はおかめ役の独演で、男性が扮していると思えない女性の身のこなし方で踊りを披露する。
・次は6人による棒踊りで、棒の振り方、棒の合わせ方、足の揃え方など、難易度の高い踊りを披露する。
・次は護摩を焚きながら、山伏4人の行者舞いで、この世の泰平を祈祷する(写真06)。
 山伏は全員赤い衣を着て兜巾(ときん)姿であるが、左から、羽黒山・愛宕山・富士山・熊野山の山伏とされている。各行者の持っている武器も、鉞(まさかり)、槍、長刀(なぎなた)などと異なる。

           写真06(山伏の祈祷)

・次に、萌黄の直垂すがたのお公家様4人(写真04)が蹴鞠の奉納をする。さすがに蹴鞠は難しいので、簡略作法で済ませていた。

・演技がすべて終わると、もういちど出演者全員が列を組んで、会場を道行し(一巡して)、フィナーレとなる。

 場内放送だと、今日の出演者の方々は、このあと本当の会場(山の上の神明社)に行って、もう一度お峰入りをするそうである。大変なことだ。

 

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