アイガー北壁を見る山荘

 2014 年 9 月、アイガー北壁を見に行った。 インターラーケンで、アイガーの麓にあるグリンデンバルドに向かう鉄道に乗り換えた 9:55。 この鉄道は私鉄だがスイスパスで無料で乗れる。 山裾まで結構長い列車で進む(写真 01)。 こ れは、途中のツヴァイルシーネンで分岐してラウターブルンネンまで行く列車と併結しているからである。分岐駅に着いたら、ホームの中間を鉄道線路が横切っているのに驚いた(写真 02)。

        写真01 山裾までは2列車併結で運転

         写真02 ホームを線路が横断している
 まっすぐ進むのがラウターブルンネンに行く 線路。ホームを横切って左にカーブしているのがグリンデンバルドに行く線路である。低床ホームだからできる芸当だろう。この鉄道も要所・要所はアブト式になっている。 10:39 グリンデンバルド駅に着いたらアイガ ー北壁の前にグリンデンバルドの村が広がって いて美しい(写真 03)。

    写真03 アイガー北壁をバックに広がるグリンデンバルトの村

 その後ろの高い山には雲がかかっている。こ れでは登山電車でユングフラウヨッホに登って も何も見えないだろうと、計画を変更し、明日 見る予定のトゥリュンメルバッハの滝を先に見 ることにした。 同じ電車に乗って先ほどの分岐駅まで引き返 し、電車を乗り換えて、11:27 ラウターブルン ネン駅に着いた(写真 04)。

          写真04 ラウターブルンネン駅
 ラウターブルンネンは東西を高さ400mほど の石灰岩壁で囲まれた南北に長い谷である(地図05)。この谷は、ユングフラウからムートホルンまでの峰々から発する氷河を集めた大氷河が削った谷で、東西の高さ 400m の壁はU字谷の名残である。駅の少し奥には400mの壁を一気に落ちるストーバッハの滝もある。

地図 05 ラウターブルンネンの谷(白:登山電車、水色:バス、赤:山道)

 

駅からトゥリュンメルバッハの滝の入り口 (写真 06)までバスで行く。

        写真06 トゥリュンメルバッハの滝入り口
 トゥリュンメルバッハの滝は、石灰岩の山体を流水が溶かして作った細い溝の中を、十数段 の滝となって流れ落ちている名勝である。パックツアーではまず廻らない所だ。全体の落差が大きいので2/3ぐらいまでは斜めに走行するインクラインで登り、あとは 130 段ぐらい階段を登る。そこから階段を歩いて降りながら滝を鑑賞するようになっている (写真07,08,09)。

  写真07 シャフト内を流れ下る滝

        写真08 洞窟状の狭い隙間を流れる滝

        写真09 複雑に蛇行した溝を流れ下る滝

 これらの滝は写真 10 のように狭い岩の隙間 の中を流れ下っているので外からは見えない。 極めて面白い構造をしている。石灰岩は水に溶 けやすいのでこういう地形になったのだろう。

        写真10 瀧は左の溝の中を流れ落ちる

 帰りのバスの時刻を見たら次のバスまで 50 分もあるのでラウターブルンネンまで4km強を、両側の絶壁を見ながら歩くことにした。 歩き始めてしばらくしたら4頭の牛を連れて歩いて来る人がいる(写真11)。

       写真11 道路を歩いて牛を移動させる

  牛とすれ違う際、先頭左側の牛が当方のすぐ近くまで顔を寄せてきたので少々怖かったが、カウベルの音をゆったり響かせながら何事もなく通りすぎて行った。後ろから見ると後ろにも人が一人バイクで付いている。バイクで付いているのは牛が逃げ出した時追いかけるためだろうか。
 ラウターブルンネン駅が近づくと、後ろの急斜面に雪崩防止柵が幾重にも張り巡らされているのが見えてきた(写真 12)。山肌が急なので、それほど危険なのだろう。今晩はあの急斜面の上のメンリッヒェンで泊まることになっている。

        写真12 幾重にも設置された雪崩防止柵

 ラウターブルンネンからは登山電車でクライ ネシャイデックに向かう。発車まで間があるので、駅の床に寝ころんで登山電車の床下のアブ ト式の歯車の写真を撮っていたら(写真14)、他の観光客が珍しがって集まってきた。こういうところに興味を持つ人は少ないのか。

      写真 14 登山電車のアプト式歯車

 女性の鉄道員に「モータのついてない車両にも歯車がついているのか」と質問したら、質問の意味が分からないらしく、当方の顔を眺めただけで通り過ぎて行ったが、しばらくしたら戻 ってきて、「ついている」と返事をよこした。技術系の職員に聞いてきたようだ。その女性は当方が乗った登山電車に車掌として乗務していたので技術方面は分からなかったのだろう。モータの無い車両にアブト式の歯車をつけてもあまり効果は無いと思うのだが。制輪子の力も利用して少しでもブレーキ力を大きくしているのであろう。

 このラウターブルンネンからクライネシャイ デックに登る登山電車は圧巻だ。ユングフラウに行ったら是非この路線に乗ることをお勧めする。 登山電車でラウターブルンネンから一段上の台地にあるベンゲンに登ると、ラウターブルンネンの谷がこのように見える(写真 15)。

          写真 15 ラウターブルンネンの谷
 車内に乗り合わせていたワン子もおとなしく床に寝ていてかわいい(写真16)。垂直な電柱 がこのように見えるほど傾斜が急である(写真17)。振り返るとベンゲンの町(写真18)が見える。

        写真16 車内の犬

        写真17 傾いて見える地上の電柱

              写真18 美しいベンゲンの町

 線路の勾配標も「180-95」を示すようになった(写真 19)。この標の見方は、ここから登 ってゆく区間の勾配は 180‰、ここから下って行く区間の勾配は95‰という意味である。勾配標の最高は 270 というのを見た記憶がある。

         写真19 線路の勾配標
 列車の進行方向が東に変わると、まず、ユングフラウの巨大な岩壁が現れ、その先にメンヒとアイガーの壁が見えてくる(写真 20)。次にクライネシャイデックのホテル群が見えてきた(写真21)。鉄道屋としては、傾斜地に車両基地を作る工夫の方に目が行く。

       写真20 アイガー北壁とメンヒも見えてきた

   写真21 クライネシャイデックのホテル群(右下が車両基地の入口)

 今日はアイガー北壁の展望台として有名なメンリッヒェンの山荘に泊まる予定なので、一般観光客とは反対側に伸びる高原の山道を歩き出す。ヒュッテまでは約5km で高低差は200m足らずである。この道は眺めが良い。アイガーが後ろ側になるので度々振り返る。右下方にはグリンデンバ ルドの村全体が見える(写真23)。ユングフラ ウヨッホの頂上展望台も見えてきたのでズームで引きつける(写真24)。 高原の道はこんな感じで(写真25)、冬は高原全体が大きなスキー場になるとのこと。

       写真23 山裾に広がるグリンデンバルドの村

         写真 24 ユングフラウヨッホの展望台

          写真 25 メンリッヒェンへの道

  クライネシャイデックから 1 時間 15 分程で メンリッヒェンの山荘に着いた(写真 26)。隣 にはロープウエイもあるので歩かなくても来られるようだ。

         写真26 メンリッヒェン山荘
 早速チェックイン。あまり気の利かなそうな 女の子が受付。夕食も食べるかと聞かれたが、 ここには町のレストランがないのでここで食べ るに決まっていると思うのだが。 定食コースがあるのかと思ったがメニューを 見て頼むのだそうだ。朝食は 8:00 からとのこ と。予約する時に「朝食は7:00から食べられ るか」と聞いたらOKと言っていたのに。 建物は木造なので内部の感じも暖かい。部屋に入ると窓からアイガー北壁がよく見える(写真27)。 とにかく眺めのいい所である。

   写真27 部屋の窓からアイガーが良く見える

 受付の女の子を除きすべて満点の宿だが、10月なので閑散としている。冬はこの付近一帯がスキー場になるので夏より混みあうらしい。夕食は18:00~20:00の間に済ませてくれとのこと。まだ時間があるので付近を散歩。外に出ると風も強く寒い。ラウターブルンネン側の手すりに行ってみたら深い谷が落ち込んでいた(写真28)。中段のベンゲンまででも標高差1000m、ラウターブルンネンまでだと1500mの標高差があるのだから当然だろう。

       写真 28 メンリッヒェンからラウターブルンネンを見下ろす

 18:10頃レストランに行ったら日本人の家族連れがいたのに驚いた。ご夫妻と5歳ぐらいの女の子。家族旅行でここを選ぶとは、ご主人が相当旅慣れているのだろう。聞いてみたら、去年もここに来た事があり、景色がいいのでまた来たとのこと。ここに3泊するそうだ。うらやましい。
 食事は適当に頼んだら結構食べられるものだ ったのでほっとした。町のレストランのようにやたらボリュームが多いということもなかった。ビールを飲みながら前菜とパンを食べる。一人で食べている割には結構時間がかかった。 パンにはバターしか付いていなかったのでジ ャムも欲しいと言ったら、ジャムはないという。不思議そうな顔をしていたら、配膳カウンターを見てくれとのこと。まさかと思って配膳カウ ンターまでついて行ったら本当にない。しかし翌日の朝食にはバターとジャムが揃っていた。どういうことなんだ。受付の女の子の気の利かなさを証明している。

 19:00過ぎに色のやや浅黒いアラブ系の4~5人のグループが入ってきて食事を始めた。傍若無人と言っていいほど声高に話している。うるさいのは中国人だけかと思っていたが、アラブ系もこういう民族なのか。最後にコーヒーを飲んで20:00きっかりに部屋に引き揚げた。

 部屋に入ってアイガー北壁を見たら、真っ暗な北壁の中に一点だけ電気が点いている。登山電車の展望台の明かりに違いない。一晩中電気をつけておくのだろうか。面白い。 それではなんとか写真に収めようと窓枠にカメラを置いて、厚紙で上向き角度を調整しながら何枚も撮った(写真 29)。

    写真 29 アイガー北壁にともる電灯

 今までのカメラでは開放でなければ撮れないようなわずかな光でも、最近のカメラは電子処理で、目に見える程度にまでしてくれる。何回も試して、展望窓の明かりがかすかに見える程度の写真になった。今の電子処理技術はすごいものだ。デジカメはその場で撮影結果を確かめられるから便利だ。
 明日の天気をフロントに聞きにいったら、今日と同じようなものとのこと。残念。明日はユ ングフラウヨッホに登るので是非とも晴れてもらいたいのだが。

 翌朝、朝食前に、歩いて15分ほどのGipfelwegという展望台に行った。ここはアイガー・メンヒ・ユングフラウの眺めがいい所として有名なところだ(写真30)。残念ながら空は曇っているが、確かに、三山の眺めは最高だった。

          写真 30 ユングフラウ三山の眺め

 

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