ドナウの絶景とドナウ下り

 iPod に入れた音楽を通勤の行き帰りに何回も聞いていたら、「美しき青きドナウ」がなんとも素晴らしく感じた。柄にもなく、これを聞きながらドナウ下りをしてみたいと思ったのが、この旅行のきっかけである。
 ドナウ下りのお奨めコースをドイツに永住する高校時代の同級生に聞いたら、リンツ~ウイーン間のクルーズを薦めてきた。そのコースの風景をインターネットで調べていたら、リンツの少し上流にドナウ川の絶景があることが分かった。それを見てからドナウ下りをするように計画を立てて、ホテル、列車の切符、クルーズ船もインターネットで予約して、2013年8月に出かけた。
 ドナウ下りは船でウイーンまで行くと、到着が遅くなるので、クレムスで降りて、あとは列車で行くことにした。

ドナウの絶景(晴れ)
 今日はドナウ川の絶景を見る日だ。ザルツブルグ8:12発の特急でリンツへ。指定席ではないので適当に乗り込んだがガラガラ。このあとオーストリア国鉄(OBB)に4回ほど乗ったがいつもガラガラ。これで採算が取れているのかね。景色は平凡な田園風景が続き、定時にリンツ着。大きな駅舎(写真04)を抜けて隣接するバスターミナルに行く。このバスターミナルも馬鹿でかいが、バスの姿はほとんど見かけなかった。

            写真04 リンツ駅構内

 まずバスの切符を買おうと案内所に行ったら、バスの便名と乗り場を案内するだけで切符はバスに乗るときに乗務員から買ってくれとのことだったので、駅から4分ほどのホテルに行ってザックを預けた。その途中、ジプシー系と思われる親子が歩いてきたが、母親はすぐにどこかに消え、小6ぐらいの女の子一人がか細い声で何か言って、物乞いするように手を差し出した。すぐに金をねだっていると分かったので、「あなたの言っている事は分か らない」と英語で答えて、さっさと通り過ぎた。

 予約したホテルは名前が Locomotive と面白いので予約したのだが、ホテルの看板に機関車の絵が描いてあるだけで、内装はまったく機関車とは 縁がなかった。荷物を置いてからまた駅に行き地下街を歩いていたら、地下一階だというのにパン屋に鳩が入り込んでいたのにはビックリした(写真06)。

         写真06 地下街のパン屋にも入り込む鳩

 バスに乗る前にトイレに行っておこうと駅のトイレに行ったら有料トイレだった。料金箱の前にジプシー系のこれまた小6ぐらいの女の子が立っていて、「料金はここに入れる」とでも言うように手で指差して案内する。結局トイレは 0.5 ユーロ だったがチップを1ユーロ取られた。
 バスターミナルでしばらく待って10:29発の670便に乗る。運転手に目的地を書いた紙を示して往復を買う。大型バスだが乗客は買い物の地元民を含めて6人しかいなかった。

 最初の20分ぐらいはドナウ川に沿って遡る。途中からローカルの鉄道線路に沿って走る。電化されていたが一番簡単な架線構造だ。運転本数も少なく速度も遅いの だろう。出発して1時間ほどでドナウ川に懸かる橋の下にある停留所についた。ここで最後まで乗っていた若い女の子も降りて、あとは当方一人だけ。
 当方の目的地はシュレーゲン(schlogen)というドナウ川が大きく蛇行している場所だ。11:53にシュレーゲンに着いた。極ありふれた田舎のバス停 留所だった(写真10)。観光客の姿も見えない。

           写真10 シュレーゲンのバス停

 ホテルの看板に導かれてドナウ川沿いの展望デッキのあるレストランに向かう。まずここで昼飯を取る。なかなか眺めが良い(写真 12)。対岸との間を小さな渡し舟が往復していた。

           写真12 ドナウ川岸のレストラン

 昼食後いよいよ絶景展望台への登り口に向かう(写真14)。12:33 登山開始。小型車なら車でも登れそうな道を展望台に向かう。降りてくる人に何回も出会ったので観光客は来ているようだ。でも日本の観光地のように行列となるようなことはない。

           写真 14 絶景展望台への登り口
 ついに展望台の案内板が現れた(写真16)。案内図でも分かるとおり、ドナウ川がヘアピンカーブのように大きく屈曲したところを上から見下ろせる展望台なのだ。

            写真16 絶景展望台の案内図

 そこには素晴らしい景色が広がっていた(写真18)。登り口から30分かかった。高度計で見ると180m登っている。それだけに、大きく蛇行したドナウが美しい。ドナウ川は左手から流れてきて右手に消えてゆく。パックツアーでは絶対に来られないところだ。

              写真 18 ドナウの絶景

 時には大きなドナウクルーズ船も通過する(写真20)。この舟はドイツとオーストリアの国境の港パッサウからウイーンまで、一泊二日のクルーズで下る舟だろう。同じくらい大きな貨物船も行き来している。

        写真20 ドナウを下る大型クルーズ船

 素晴らしい景色に後ろ髪を引かれながら13:50展望台を後にして下り始めた。ふもとの川沿いのレストランに戻ったら、ここに停まるクルーズ船もあるらしく、展望デッキの外側に大きな船が着いていた。帰りは14:57のバスに乗った。乗客は当方一人。バスのすぐ脇をサイクリング車が駆け抜けてゆく。ドイツ・オーストリアはどこに行ってもサイクリ ングを楽しんでいる人が多い。

 明日のドナウクルーズ船の切符を買うために、バスの終点(リンツ駅)まで行かずに、リンツ市内のドナウ川べりでバスを降りた16:20。よく晴れていて暑い。メールで乗船を予約していた船会社の建物とおぼしき建物を見つけたので、入って聞いたら、日本人がメールで予約したのを覚えている女性だったので話はスムーズに進んだ。

 船の乗り場を聞いたらこの前より一つ下流側の乗り場だという。外に出てみたら、近くの下流側に乗り場があったので「あれか」と聞いたら、違うもっと下流だとかなりつっけんどんな対応だったのでビックリした。もっと下流側に歩いたら船着場があった。そこには船が着いていたので船員に切符を見せて、「明日、この切符の舟に乗りたいが乗り場はここでよいか」と聞いたら、にこにこと愛想良く「OK」と返事が返ってきた。その後、オーストリアを旅行して分かったことだが、オーストリアでは若い女性はつっけんどん だが、男性は優しくて親切だ。

 それからリンツ市内を見物がてら市内の目抜き通りと思われる通りを歩いていった。もう夕食の時間なのでチャイニーズレストランを探しながら歩いた。市内はトラムが走り、人通りも多い。オーストリアの教会はロシア正教式のスタイルが多い(写真 26)。

       写真26  ロシア正教風の教会が多い

 もう17時過ぎだというのに日はまだ高く暑い。それから先でもいろいろなところで「この付近にチャイニーズレストランはあるか」と訪ねたが、「あるある」と言う割にはその場所に行ってもレストランは見つからなかった。

 特にひどかったのは、ある立ち売りのピザ屋で聞いたときだ。店員はアラブ系・インド系・東南アジア系という感じだった。インド系と東南アジア系は「知らないと」と言ったが、アラブ系の男性がいかにも自信たっぷりに、「この道を行って右に曲がるとある」という。インド系と東南アジア系は「あのへんにチャイニーズレストランなんかないだろう」とアラブ系に言っていた。一応「サンキュー」と言って、そちらを探してみた。やはりなかった。どうしてアラブ系はこういう反応を示すのだろう。民族の差が現れていて面白い。

 またメインの通りに戻り、通行人に聞きながら歩いていったら、ある白人女性が教えてくれた情報は確かだった。メインの通りから少し奥まったビルの入口に漢字で”蓮苑飯店”と書いてあった(写真28)。漢字で書いているくらいなら中国人が経営しているレストランだろうと入ってみたら、女将は正真正銘の中国人で、店員も中国人の留学生だった。料理を持ってきたときに「何を勉強しているのか」と聞いたら「チンチー」という。「経済学ね」と日本語で言ったら「英語で言ってくれ」というので、「エコノミックス」と言い直したら「そうだ」という返事が返ってきた。オーストリアが経済学の聖地かね。あまり聞いたことはないが。でも料理はうまく、満足して店を出た。

         写真28 正真正銘の中華料理屋

 レストランを出て目抜き通りを歩いていたら、ジプシー系の顔立ちの若い女の子が当方と連れ立って歩き出し、英語で日本人かと聞いてきた。そうだと言ったら、「来年日本に旅行に行く、ついては日本のことを教えてもらいたい」と切り出した。「いいよ」と言ったら、そこにマクドナルドがあるので、あそこでコーヒー飲みながら聞きたいという。 中に入ったら、「コーヒーを買ってくるから20ユーロくれ」という。女性に買いに行かせてはエチケットに反すると思い、「私が買ってくるからそこのテーブルで待っていてくれ」と言ったら、どうしても私が買ってくると言い張る。

 ここで気が付いた。マクドナルドでコーヒー2杯が20ユーロもするはずがない。20ユーロ渡したらその金を持ってドロンする魂胆だろう。早い話、お人好しの日本人を狙った小銭稼ぎなのだ。今日だけでジプシー系の女の子に3回も狙われた。ジプシー系から日本人は「いい鴨」と思われているのだろう。こういう現実が続くと、あまりジプシーに同情できない。

 目抜き通りを通り抜け、リンツ駅近くの公園まできたら、地面に大きな駒を並べてチェスをしている(写真30)。対局者の独り言が面白く、ルールは分からないが最後まで見てしまった。19:20だというのにまだ陽が出ている。

          写真30 公園でチェスの試合

 ホテルについて部屋に入り、荷物を整理したら もう20:30だった。部屋はちと狭いがまあまあ。夜のリンツも歩いてみることにした。晩飯はもう食べたので、バーやビストロ風の飲み屋を探して市内を結構歩いた。途中、これは危ないかなという真っ暗な道を通り抜けたこともあったが、結局、適当な店が見つからなかった。しかたなくホテルに戻り、ホテルのレストランのラウンジで飲んだ。ビールはカイゼル(Keiser)という銘柄でこの旅行で飲んだビールの中では一番うまかった。隣で中高年グループが楽しそうに話していたので、「日本から来た」と言って話の輪に入ってみたが日本人にあまり興味はなさそうだったので早々に引き上げて部屋に戻った。このへんは開発途上国とは違うな。

ドナウ下り(晴れ)
 今日はドナウ川下りをする日だ。タクシーで船着場へ。もう船は着いていたのですぐ乗り込み、後部デッキのテーブルに座った。今日は一日このデッキから景色を見ることになる(写真 34)。

      写真 34 今日一日を過ごす後部甲板の席

 クルーズ船の予定は、リンツ 9:00→グライン12:00→メルク14:40→クレムス16:20 で、120kmの船旅である。クレムスからは鉄道でウイーンのフランツ・ヨゼフ駅に向かう。
 GoogleEarth で調べるとメルクに着くまでに閘門が4つある。閘門を通過するのは初めてなので、閘門を見るのも目的の一つである。9:42いよいよ最初の閘門についた。満々と水のたまった水路に入ってゆく(写真 36)。

          写真36 閘門の水路に入る
 後部の水門を閉め、強力なポンプで水を排出するにしたがって水面が下がり、舟の両側に閘門の壁が競りあがってくる(写真44)。水面が下がり終わると水門が開く(写真 48)。

      写真44 水面が下がるに従って壁が高くなる

         写真48 下流側の水門が開く
  船が動き出す前に係船柱のもやい綱を解いていた。水面が下降し終わってから水門が開くまでの間は船を固定しておくのだろう。船が水門を出た後の水路はこんな感じである(写真52)。正面の水門の後ろは水が満々とたまっている。もしあの水門が破れたら大洪水だ。

        写真 52 船が出た後の閘門水路
 閘門とはうまいものを考えたものだ。これを利用して標高400mぐらいの分水嶺でも1000tクラスの船を上げることが出来る。これによりヨーロッパの大きな河川はほとんど運河でつながっているとのこと。人間の知恵の偉大さに感嘆する。

 船の中を歩いて見物する。上甲板デッキ(写真60)、操舵室(写真62)、レストランと自転車置き場(写真 64)。ヨーロッパはサイクリングが重要 なレクレーションとなっているので、どこに行っても自転車を大事にしている。

        写真60 上甲板デッキの客席

         写真62 クルーズ船の操縦室

      写真64 船内のレストランと自転車置き場

 川岸にはサイクリングで船と競争している人もいる。反対方向のクルーズ船ともすれ違う。途中にある船着場はおおむねこのような簡素なものである(写真 70)。船着場には必ず舳先を上流側に向けて着岸する。

     写真 70 船着場はどこも簡素(ここは Melk)

 メルクを過ぎるといよいよドナウ下りのハイライトの渓谷に入る。メルクからクレムスまで2時間程の渓谷がハイライトなので、あわただしく廻る日本人団体観光客はこの区間だけを乗ることが多い。しかしこの区間には閘門はない。

 かねて用意のiPod を取り出し、「美しき青きドナウ」を聞きながら上部甲板デッキの出来るだけ前の席に座る。この区間は比高300mぐらいの山に挟まれ、川幅も狭いので流れも速い(写真72)。
 まず最初に川の中に岩礁が突き出した早瀬を通過する。そこには古城が建っている(写真 74)。両岸の山の上には壊れかけた古城がいくつか見えるので、事前に調べておいた方がよい。

   写真72 ドナウのハイライトの渓谷

   写真74 メルクを出るとすぐ古城が現れる

 Spitz の船着場を過ぎてしばらく下るとドナウ川は急角度で右カーブし、川の水がぶち当たる山の上にも壊れかかった古城が建っている。その麓には Durnstein というこじんまりとした小さな町がある(写真86)。時間があればここで降りて山上の古城(写真88)までハイキングするのも素晴らしい眺めを堪能できるとのこと。ここには川水浴場がある(写真90)。

        写真86 Durnstein という小さな町

       写真88 Durnstein の上に聳える古城

            写真90 川水浴場

 ドナウ下りのハイライトという触れ込みの割には大した見どころはなかった。この区間を通過中、ドイツの若者グループが馬鹿騒ぎしてうるさかっ た。西洋人でもこういう非常識な者がいるのか。
 ここを過ぎると川幅も広くなり直にクレムスだ(写真92)。クレムスには約1時間遅れて17:10ごろ着いた。船着場のゲートを出たがバス乗り場もタクシー乗り場もない。駅まで1km歩くにはザ ックが重いので、観光案内所に行ってタクシーを 呼んでもらった。

   写真 92 クレムスの船着場

 タクシーがなかなか来ないのでずいぶん待たされた。クレムス駅には17:41に着いた(写真94)。 ここは大きな駅なので有人の切符売り場があった。自動券売機だとやっかいだなと思っていたのでホッとした。OBBはまだトイレが垂れ流し式の客車があるらしく、マクラギの上に水と一緒に流され たと思われるちり紙がべったり張り付いていた。

   写真94 クレムス駅(ホーム側から)

 ホームで18:02発の列車を待っていたら小さな子を連れた地元の人が近づいてきたので、ウイーン行きはここでよいかと聞いたついでに、手に持っていた日本の団扇を子供にあげたら喜んでいた。この団扇は、かんかん照りのドナウクルーズ船のデッキで大いに役立ったものだ。列車はローカルの快速列車でガラガラ(写真98)。

     写真98 ウイーン行きの快速列車(ガラガラ)

 車窓から眺めるブドウ畑が、棚方式ではなく、生垣のように植えてあるのが珍しかった。フランツ・ヨゼフ駅には19:07に着いた。駅前の道路を渡るとそこに今晩泊まるホテル・モーツァルトがあった(写真102)。駅から30秒だ。ラッキー。

     写真102 駅から30秒のホテル・モーツァルト

 フロントでチェックインし、指定された部屋に入ったら、大きな部屋で、シャワーではなくバスタブもついている。これで一泊48ユーロとは安い。

 

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