飯豊山後の東北湯めぐり

 2017年8月に飯豊山に登った後、2日間ほど東北湯めぐり(湯殿山神社の御神体・肘折・銀山・荒湯・鳴子)を考えていたが、飯豊山の天気が思わしくなかったため、一日早く下ってきてしまった。その増えた1日でどこを回ろうか、いろいろ悩んだ末、幕川温泉(磐梯吾妻スカイラインの近く)と那須の大丸温泉・北湯に立ち寄ることにした。

 飯豊山の登山口(川入)の民宿を7:30に出発して湯めぐりを開始。県道378→県道8→県道4を通って白川湖に抜けた。白川湖は昨年、台風に追われながらの湯めぐりで広河原温泉に行ったときに通ったところだ。
 その後、R113→R287を通って長井に抜けたら最上川に沿って走るようになった。左沢(あてらさわ)でR112に乗り移り、湯殿山神社に向かう。この神社の御神体は噴泉塔なので一度拝観したいと思っていたところだ。昨年の湯めぐりでも目指したが、時間が足りなくて見送ったところだ。今回はそのリベンジである。

 R112はこの辺では「六十里越街道」と呼ばれ、車もめったに通らない、打ち捨てられたような国道だった。八紘沢で湯殿山有料道路に入り、その終点には大きな赤い鳥居が建っていた。ここから湯殿山神社に向かうバスに乗る。5分ほどで湯殿山本宮についた。


湯殿山本宮

 すぐ本宮の境内に入る(写真02)。ここから先は撮影禁止である。石垣で囲まれた本宮境内に入り、まず水で手を洗って、口をすすいで清め、神主のお祓いを受けてからご神体(噴泉塔)への参詣道を登ってゆく。この参詣道には穂先に白い布を巻いた柱が立っている。この柱はどういう意味なのだろう。右側に赤茶色の噴泉塔を見ながら登ってゆくと、噴泉塔の湧きだし口に達する。湧きだし口からはかなりの量の湯がもこもこと湧き出しているが、柵があるので湯に手を触れて温度を測ることができない。

        写真02 湯殿山本宮入口

 どういう訳か、湧き出し口には金属製の穴の開いた蓋がかぶせられていた。湧き出し方から見れば、この蓋をとっても噴き上がることはことはないのだが。噴泉塔の高さは10mぐらいか。また同じ道を下って戻る。麓にも湯が湧き出しているところがあったので手を触れてみたら、入るには少し熱すぎるくらいの温度だった。あっけなくご神体参拝が終わり本宮境内から退出。もう少し神々しい演出があるかと思っていたのだが。バスで有料道路終点まで戻り、大鳥居脇の案内所で(写真06)、即身仏のある注蓮寺への道順を聞いた。

      写真06 湯殿山の大鳥居と案内所

 注蓮寺に向けて車で出発。なにやらダム湖の脇を通り、途中で昼食。その間、銀山温泉の宿に電話する。電話番号を調べてきた3軒(能登屋etc)に電話するも、全て「今日は予約で一杯です」と断られる。銀山温泉とは平日でもそんなに込んでいるのか。
 仕方ないので、尾花沢市役所に電話して、旅館の電話を3軒教えてもらった。そこに片っ端から電話。最後にかけた旅館(古山閣)でやっと川沿いの部屋がとれた。

注蓮寺(N38度36分9秒 E139度53分13秒)

 カーナビに導かれて、田舎道を進むと注蓮寺についた(写真08)。ここは森敦の「月山」の舞台となった即身仏(聖人のミイラ)がある寺として有名なところだ。大昔に「月山」を読んだとき、何か異次元の世界を感じたが、この寺の雰囲気もそれを漂わせている。受付で拝観料を払うと、寺の住職の奥さん(?)が大きな伽藍を案内してくれる。説明もなかなかうまい。

          写真08 注蓮寺本堂

 西暦825年、弘法大師の開基。祀られている即身仏は鉄門海上人で、亡くなったのは1829年とのことなので、江戸末期である。鉄門海上人が奇跡を起こしたという碑が、山形県を中心として、100箇所以上存在するとのこと。即身仏は顔をうつむき加減にして、頭からかぶる赤い衣を着ていた。この衣は12年に一回取り換え、その衣を小さく切ってお守りに入れて売っているとのこと。この案内を聞いているだけでも、なんとなく普通の寺と違うなという気配を感じる。

 30分ほどで見学を終え、次の目的地:肘折温泉へ向かう。カーナビのお告げによると、ここまで来たら鶴岡まわりの方が近いとのこと。となるとカルデラ温泉(肘折)の外輪山を越えて裏から入ることになる。偶然とはいえ、めったに通れないコースを行くことになった。外輪山を越える峠からの景色が楽しみだ。

肘折温泉

 庄内平野を南北に横切り、最上峡に沿って上流へ。古口駅から角川に沿って肘折に向けて南下する。だんだんと山奥の細道になる。これで人里に出られるのか心配になった頃、外輪山の峠についた。車を止めて肘折カルデラを観察する。確かにカルデラだ(地図10)。肘折は今でも気象庁の火山警報の対象に入っているとのこと。肘折カルデラは、金山・肘折・石抱の3地区で温泉が湧いている。

地図10 肘折カルデラの25000分の1(この図の右上の道路から入ってきた)

 峠道から下り、肘折温泉に入る手前を右に曲がって金山地区の温泉を目指す。そこにはカルデラ館という名の共同浴場がある(写真12)。入湯料は450円。風呂場に入る手前に源泉を流しているところがあるが、ものすごく濃い炭酸泉である(正確には:ナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩泉)。
 風呂場はそんなに大きくない(写真14)。湯は若干白濁している。温度はやや熱いかなという感じ。夏場に行ったのであまり温まると後が面倒なので烏の行水で出た。

    写真12 肘折温泉(金山温泉)カルデラ館

        写真14 カルデラ館の浴場

 次に車で肘折温泉街を一回り。肘折温泉は道路が狭いので有名だ(写真16)。しかも途中でクランク状に曲がっている。以前、積雪期に来たときは洞窟温泉のある松屋に泊まった。二階の窓から見下ろすと、大型バスが窮屈そうに曲がっていたが、今でも大型バスがこの道まで入っているのだろうか。

      写真16 肘折温泉街のメイン道路

 螺旋状の橋を登ってR458に登る。R458→県道330を通って舟形で、まだ営業開始前の東北中央自動車道に乗る。野黒沢ICで降りて、R347→県道29→県道188を使って銀山温泉についた。

 

銀山温泉

 銀山川を挟んで両側に旅館が連なっていて(写真18)、いかにも情緒ある温泉街という感じがする。前回ここに来たのは1994年ごろなので、もう20年以上前になる。そのときは入口付近の名もない宿に泊まったが、今日の古山閣は名の通った格式のある旅館らしい(写真20)。早速、その3Fの部屋から温泉街を見下ろす(写真22)。浴衣に着替えて銀山川沿いを散策する。川沿いに以前はなかった足湯もできていた。

   写真18 銀山温泉(川を挟んで温泉旅館が連なる)

       写真20 銀山温泉:古山閣

    写真22 古山閣の部屋から温泉街を見下ろす

 古山閣の各部屋の鍵が面白い。まるで土蔵につける鍵のようだ(写真24)。ロビーは太い木の梁が見もの(写真25)。風呂は大浴場・展望風呂とも大したことなし。夕食は懐石料理で、内容も豪華でおいしい。次々と運んでくるので、食べるのが追い付かない。食事がすんだので碁でもやろうかと碁盤を所望したのだが碁は置いてなかった。残念。掛け軸が「少年老易学難成・・・」だったので、それを解読するのに一苦労(写真26)。このくらいは暗記していないと教養が疑われそうだ。

 写真24 部屋の鍵(土蔵の鍵のようだ)

        写真25 古山閣のロビー

    写真26 部屋の掛け軸

 翌朝は雨だった。相棒は散歩は遠慮するというので、一人で裏山につけられた遊歩道を通って、山の神神社(写真27)、銀坑洞(写真28)、白銀の滝などを駆け足で回ってきた。朝食は食堂。これも品数が豊富だった。8:20銀山温泉を出発。宿代は17000円。

         写真27 山の神神社

           写真28 銀坑道

 

荒湯地獄(野湯)

 一旦、尾花沢IC付近まで戻り、県道28を通って赤倉温泉でR47に出て、中山平温泉・花渕山バイパスを通って鬼首地区に入った。田代川に沿う林道を走って荒湯地獄へ9:55着。早速、野湯に入る支度をして荒湯地獄を歩き出す(写真30)。雨も心配な天気だったので傘も持って行く。
 この地獄で湧き出した熱湯が川となって流れ下ってゆく(写真32)。その間に適温になって、温泉を楽しめるというわけだ(写真34)。

         写真30 荒湯地獄

  写真32 荒湯地獄で湧き出した熱湯が流れ下ってゆく

    写真34 ここまで来ると適温になっている

 

吹上温泉(滝湯)

 荒湯地獄から西へ向かう林道を通って吹上温泉へ。ここの峯雲閣には滝湯があるので有名だ。入湯料800円を払って滝湯へ。以前来たときは入口でカメラを預けさせられたが、今回はそんなことはなかった。
 内湯で着替えて、内湯を通り抜けて滝湯に向かう。高さ3m、幅5mほどの滝を落ちる川水が温泉なので、直径15mほどの滝つぼがそのまま温泉になっている。滝つぼの深さは1~1.5mぐらいなので安心して入れる。ワイルドな温泉を好む連中にとってはまさに天国だ。ここで怪我をしたという話は聞いたことがないので、滝つぼの底を旅館が掃除・整地しているのであろう。

 人がいなくなったら写真を撮ろうと、カメラもビニール袋に入れて持って行ったのだが、なかなか人が絶えない。手のひらもふやけてしわしわになってきたので待ちきれずに、「写真を撮りたいのでチョットの間だけ、そこを空けていただけませんか」と頼む。その一瞬のすきに相棒の写真を撮る(写真36)。それを待っていたように、女性の温泉愛好家もタオルで包んでいたカメラを出して滝の写真を撮っていた。みんな写真を撮りたくてウズウズしていたのだ。

      写真36 吹上温泉の湯滝(峯雲閣)

 

鳴子温泉:滝の湯(共同浴場)

 鳴子温泉街に戻り、鳴子温泉発祥の地といわれる「滝の湯(写真38)」という共同湯に入りに行く。車を止める場所があるかどうか心配だったが、この時は空いていたので、湯小屋の前に停めることができた。ラッキー。直ぐ上にある木造の大きな貯湯槽には温泉神社から大量の湯が流れ込み、その湯が木の樋となって流れ落ちているうたせ湯となっていた(写真40)。

     写真38 鳴子温泉:滝の湯(共同湯)

     写真40 滝の湯のうたせ湯

 

 13:00に滝の湯を出て、今日の泊まり場所「幕川温泉」の水戸屋に宿泊を申し込む。ここは銀山温泉のように込んでいないらしく、すぐにOKの返事が返ってきた。正直言って、幕川温泉という名前は聞いたことはあるが、どんな温泉か知らなかった。期待にたがわぬ温泉であることを祈りながら東北道に乗る。

 仙台付近で、数年前、同じ相棒と早池峰山に登りに行ったとき、「この辺でカモシカが飛び出して危うく衝突しそうになったんだよね」と思い出話に花が咲く。そのときは相棒のハンドルさばきがよく、カモシカとの衝突はまぬかれた。両側に遮蔽物のある高速道路にカモシカが飛び出すとは想像もしていなかった。カモシカの獣道を高速道路が断ち切ってしまったのだろう。

 高速を福島西ICで降りてR115を進む。土湯トンネルの手前で県道30に入る。ここの道路形状は複雑に交差している。標高も高くなったので霧も濃くなってきた。野地・鷲倉温泉を通り、林道へ入る。この林道が意外と長く、くねくね曲がっている。しかも雨で崩れた赤茶けた砂利が道端に押し出している。いったいどこまで行くのだろうと心配になった17:00頃、ようやくドンヅマリの幕川温泉についた(写真42)。宿はシーンとして、ほとんどが空室だった。宿についてから地図で見たら、磐梯吾妻スカイラインの下側を並行して走っている林道だった。

 

幕川温泉

       写真42 幕川温泉:水戸屋旅館

 早速野天風呂に入りに行く。宿の裏庭の奥に、小沢に面して石組の硫黄泉があったが、期待したほどの雰囲気ではない。ここも一人入っていてなかなか出ていかないので、湯船全体の写真は撮れなかった(写真44)。帰りに、庭に除雪用ブルドーザーが置いてあるのに気が付いた。積雪期は旅館が自力で除雪しているのがわかった。国道や県道以外の山の中の温泉は大変なのだ。

        写真44 幕川温泉の露天風呂

 夕食のお膳は写真46のとおり。夜中、結構雨が降っていたので、道路わきの砂崩が心配になった。まさかここに缶詰になることはないだろうな。翌朝、内湯の大浴場に入ったが、特に風情のある風呂ではなかった(写真48)。8時頃出発。宿代は12000円。

        写真46 幕川温泉の夕食

写真48      展望風呂                      大浴場

 

那須:北湯

 R459で岳温泉を通り、二本松ICから東北道に乗り、白河ICで降りて、県道68→県道305を通って、那須の中腹を通る県道290を進むと、八幡温泉で昔は有料道路だったところに出た。有料道路のころは上下別線だったが、現在は有料道路ではなくなり、同じ道路を上下方向に通行できるようになっていた。県道17を登り大丸温泉に行ったら、「本日は日帰り入浴はしていません」の看板が出ていた。残念。ここの大露天風呂はなかなか良かったのだが。

 仕方ないので北温に向かった。駐車場に車を止め、コンクリート道を温泉まで歩く。途中のスイッチバックで一軒宿の全貌を眺められる場所があったはずだが、そのような景色に出会わないまま北湯についてしまった。ルートが一部変わったのかな。

 10:50北温着。いつもと変わらないたたずまい。700円払って日帰り温泉を申し込む。ちょっと前まで中国人が帳場を仕切っていたのだが、今日は見当たらない。早速、大露天風呂(温泉プール)に入る(写真50)。普段よりプールの底に藻が多く張り付いている。人手不足で掃除の手が回らないのかも。

         写真50 温泉プール

          写真52 天狗の湯

          写真54 河原の湯

 次に天狗の湯(写真52)・うたせ湯・河原の湯(写真54)を回ってから、宿の裏手にある温泉神社と源泉湧出口を見に行った。温泉神社まで70段の階段を登り(写真56)、神社の脇を藪漕ぎしてゆくと湧出口に達する。40年前は踏み跡がついていたので藪漕ぎする必要はなかったのだが。源泉は岩にあいた穴から大量に湯が湧き出だし(写真58)、地球の息吹を感じる。湯はここから岩の斜面を流れ下って、うたせ湯に注いでいる。12:00に北湯を出て駐車場へ。展望台から駒止の滝を写真に収めた。

         写真56 温泉神社

         写真58 北湯の源泉


那須:鹿の湯

 県道17を下って湯本の鹿の湯(共同浴場)に向かう。殺生石から流れ下ってくる川を挟んで、浴場棟(写真60)と休憩棟(写真62)が建っており、その間を橋でつないでいる(写真64)。入湯料400円を払い脱衣場へ。案外混んでいた。

        写真60 鹿の湯:浴場棟

        写真62 鹿の湯:休憩棟

      写真64 浴場棟と休憩棟をつなぐ橋

 ここは那須で一番古くからある共同浴場で、いろいろな温度の湯船がそろっているので有名だ。41℃,42℃,43℃,44℃,46℃,48℃の6種類ある。48℃の湯船には入り方の作法が書いてあった。①湯船に波をたてないこと。②人が湯船に浸かっているときは出入りしないこと。③入っている人が出るときに湯船に入ること。④41℃から入り、順次高い温度に入ってゆくこと。48℃の入浴時間は2分となっていた。

 相棒は48℃にも挑戦していたが、当方は46℃でやめておいた。鹿の湯を13:40に出て帰路についた。幸い、高速道の渋滞はなかった。

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