相模川踏破1

 相模川は山中湖から流出し、富士吉田・大月・上野原・相模湖・津久井湖・厚木を流れて平塚で相模湾に入る、109kmの一級河川である。実際にできるだけ流れに沿って歩こうとすると、道がなく大きく迂回したりするので、実際に歩いた距離は150kmにもなった。

 2016年~2017年にかけて、退職後の暇つぶしのため、相模川の水利用形態を探るため、水源から河口まで歩いてみた。上流・中流では農業用水と発電用水に使われ、下流では農業用水と水道水として使われている。上流部では、発電用に使われた水は川に戻さず、すぐ水路で次の発電所に送られるケースが多い。電力会社の水利権なのであろう。下流部では、水道水としての使用量が多く、寒川取水堰の下では川原が半分干上がっていた。このため川の土砂搬送力が弱まり、河口に溜まった砂が波に押し戻され、河口の幅が川幅の半分ぐらいになっていた。

 この相模川踏破1は相模川の上流部(山中湖~大月)までのルポである。

 

写真102 左:山中湖から桂川(相模川)が流出する水門。    右:水門から富士山が良く見える。

 水門から流出した桂川に沿った道をしばらく行くと、川は林の中に入ってゆく。先のことを考えると向こう岸に渡りたいのだが飛び越えられるところが見つからない(写真104)。

写真104 向こう岸に渡りたいのだが飛び越えられるところが見つからない。

 やっと飛び越えられそうなところを見つけ、飛び越してから撮った写真が写真106である。

写真106 岩から岩に飛び移ってから手前の岸に着地した。水辺付近は岩に氷が張り付いているので滑りそうで怖かった。

 難所を通過して林の中を歩いてゆく(写真108)と猪の罠も仕掛けられている(写真110)。川の両側に護岸が現れるようになると歩きやすいが、ところどころ行く手をさえぎられる。雑草が生い茂っていたり(写真112)、作業場の塀に囲まれていたり、いろいろな資材が護岸の上まで置いてあったりして、通り抜けできない。このような場所は大きく迂回して進まざるを得ない。

        写真108 林の中を進む

     写真110 猪の罠も仕掛けてあった

写真112 川の護岸にも障害物が立ち塞がるので大きく迂回する

 桂川は忍野八海の近くを流れているので忍野八海にも寄ってみた。2月だというのに観光客が多かった。特に中国人の団体が多く、中国語が飛び交っている。店側も中国人の店員をそろえていた。このすぐ下で山中湖からの本流と忍野八海からの支流が合流している(写真116)。

  写真114 忍野八海の一つ(観光客でにぎわっている)

写真116 山中湖からの本流(右)と忍野八海からの支流(左)の合流点

以下、「相模川流域図」のページを参照しながら読んでください。

 山中湖を出た水はまず、①忍野発電所と②鐘ヶ淵発電所に分流される。①②で発電に使われた水は一旦川に放流されるが、その少し下流で水路に取り込まれ、③鹿留発電所で発電機を回し、川に放流されることなく、すぐに水路を通って④谷村発電所でひと働きする。このあと川に放流されるが、すぐ下流で⑤川茂発電所を通り、再び長い水路で猿橋近くまで運ばれ、落差の大きい⑥駒橋発電所を回している。

 駒橋発電所でも水を本流に戻すことなく、いや、さらに本流から水を取り込んで、水路で上野原の八ッ沢発電所に送っている。この水は猿橋の峡谷を水路橋で横断し、大野貯水池に入り、再び水路で⑦八ッ沢発電所と⑧松留発電所に送られたのち、上野原付近で桂川に放流される。このあとは川を流れて相模湖に溜まり、⑨相模ダムの相模発電所でひと働きしてから津久井湖に溜まる。津久井湖では揚水式発電所の⑩城山発電所で繰り返し使われたのち、⑪城山ダムの津久井発電所を回している。発電所の水は実によく再利用されている。

 これより下流には発電所はなくなるが、各地の市町村の水道として次々と取水されていく。相模川本流だけでなく支流(道志川・中津川など)からも取水されているので、相模川には多くの水道橋がかけられている。

 忍野八海の下流に発電所への取り入れ口が2つある。いずれも堰を作りその脇から水路に取り込んでいる。最初の取り込み口は②鐘ヶ淵発電所に送るものであり、その下流に①忍野発電所への水の取り入れ口がある(写真118)。水路式発電所の水路には必ず「オーバーフロー」流路が付いている(写真120)。これは、流水量が多すぎるときは、この流路を使って余分な水を川に落とすためである。いよいよ発電所に落ちる水路を横切る所に出たので、水路と発電所の建物をカメラに収めた(写真122)。

写真118 この堰で左側に①忍野発電所への水が分流される

写真120 ①忍野発電所に落ちる前のオーバーフロー流路

    写真122 ①忍野発電所

 忍野発電所から下流は川沿いに道があったり無かったりで、どのように迂回してゆくべきか迷うところが多い。ときには川沿いのブッシュをかき分けたり、ときには川から遠く離れた自動車道路を歩いたり、読図力が試されることが多い。

 写真124 ①忍野発電所の下流(桂川)ここには発電所で使った水も合流している。

写真126 ②鐘ヶ淵発電所(右側の白い建物):ここも使用後の水は桂川に戻している。

写真128 富士吉田市内の桂川(両岸の堤防上が歩道になっている)

 富士吉田市内を流れる間は、発電所で使った水は全量、川に戻されるため川の水量は多い。おまけに、まだ生活排水の流入量が少ないので透き通るような水である(写真134、136)。

写真134 溶岩の段差を滝のようになって怒涛の如く流れる桂川

写真136 中央道富士線(富士高速)の下を流れる水量豊富な桂川

写真138 サギとカワウの楽園もある(写真140のチョット上流)

写真140 ここで③鹿留発電所への水が専用水路に分流される(富士急行寿駅の近く)

 ③鹿留発電所への水路は山の中をトンネルで抜けてゆくので、桂川本流を追いかけることにした。この辺は川が分流して幾筋も流れているのでどれが本流だかよく分からないが、これが本流だと思われる流れに沿って歩く(写真202)。水門から流れ落ちる水の量は鹿留発電所に送る水よりはるかに少ない。

 写真202 堰から落ちる水は少ないが、この川に沿って歩く

 桂川に沿って歩いてゆくと、早速、護岸の工事現場に突き当たり立入禁止となっている(写真204)。こういうところも工事関係者を装って歩けるように、相模川踏破のいで立ちは、ツナギを着てヘルメットをかぶり。登山靴を履いて軍手をはめている。

    写真204 護岸工事の現場を通り抜ける

桂川が富士高速の向こう側に移動して、また、こちら側に出てくるところには小さな滝もある(写真206)。

  写真206 桂川の上流部は溶岩流を削り込んだ滝が多い

 しばらく下ると桂川の沿岸が公園になっている。その公園に渡る橋が木造のアーチ橋になっているのには驚いた(写真208)。更に下ると川沿いには道がない。しかし川はなかなかいい渓谷美を見せている。ここはどうしても川に沿って歩きたいので、ブッシュをかき分け、人家の垣根を越えながらしつこく川沿いに歩いてゆくと、桂川の絶景が現れた(写真210)。その下流で③鹿留発電所に送る水を水路に取り込んでいる堰堤があった。苦労して川沿いに歩いてきた甲斐があった。

      写真208 木造アーチ橋のふれあい橋

   写真210 溶岩流の中を曲がりくねって流れる桂川

    写真212 ③鹿留発電所に送る水の取り入れ口

③鹿留発電所の落差は150mもある雄大なものだが、その写真を撮るのを忘れてしまった。③鹿留発電所で落ちた水は、すぐ別な水路に送り込まれ、山の中を長いトンネルで④谷村発電所に送られるので追跡できない。

 鹿留発電所のすぐ下流で桂川本流は富士急行の南側から北側に移ってしまう。ここ(十日市場駅のすぐ下流)に田原の滝という絶景がある。R139の橋からよく見える(写真214)。

          写真214 桂川本流にかかる田原の滝

 この滝は形から見て明らかに人口の滝であるが、もとは柱状節理の発達した溶岩流の上を流れていたのであろう。それを掘りこんで、人工的にこのような形にしたのだろう。

 このあたりから桂川は周辺の土地よりも一段低くなった谷底を流れてゆくので川沿いの道はなくなる。地図を読むと、田原から城山までの間は桂川左岸を進んだ方が桂川に近い道を通れるので、富士高速を潜って富士高速の北側に出て、高速沿いの一般自動車道路を進む(写真215)。

 写真215 富士高速の北側に沿って一般自動車道を歩く

 25000地図によると、柄杓流川と桂川の合流点付近の一般道路から、踏み跡が桂川方向に入っている(図216)。これを歩くつもりで山の斜面に分け入ったが(図216の赤線)、踏み跡は直に消えてしまった。

       図216 谷村PA下の地図(赤:踏破したルート、緑:畑地を囲む柵)

 薮漕ぎをしながら富士高速の高架橋の下まで進んだら、水が勢いよく湧き出してくる用水桝があった(写真217)。この水は柄杓流川対岸からサイフォンで送っているのであろう。

写真217 地下から大量に湧き出す用水(対岸からサイフォンで送っているのだろう)

 用水路の上には鉄板がかぶせられているので歩きやすかった。鉄板の上を歩いてゆくと広い畑地に出た。河岸段丘面を利用した畑地は、その周りをイノシシよけの柵(図216の緑線)で囲まれていて中に入れない。仕方ないので柵の外側を藪漕ぎして進んで行ったら、桂川へ落ちる斜面になってしまい危険で歩けない。難渋していたら、柵の中で作業していた農家の人が見かねて「そこは歩けないよ、入口はあそこだよ」と教えてくれた。

 元に戻り、入口の開け方を農家の人に教えてもらいながら中に入った。やはりずっと歩きやすい。その柵を通り抜けたら次は「感電注意」と書かれた札が下がっている所もあった。柵の外を藪漕ぎで歩かなくてよかった。

 由緒ありそうな神社を左に見送ると、谷村上谷に通じる自動車道に出た。吊り橋で桂川を渡り、谷村町駅・都留市役所・都留市駅と進んだ。ここまで来ると道路の側溝を流れる水も緑色に濁っていた。やはり民家の生活排水がかなり入っているのだろう。再び富士高速の北側に出たところから桂川を見下ろすと写真220のとおりである。

    写真220 やっと桂川が見下ろせる場所に出た

 それから先も桂川に沿った道はないので富士高速沿いの道を進む。ところどころ桂川方向に入る道があるので片っ端から桂川まで歩いて、川岸に出たところで写真を撮ってゆく。えらく時間がかかる。月見が丘団地に入ったときは道が複雑で帰り路を探すのに苦労した。ある角を曲がって桂川まで歩いたら健康科学大学と書いた校舎があるのでビックリ。なんとも辺鄙なところだ。これで学生が集まるのかね。

 行き止まりの道なのでまた自動車道路まで戻り、次の道を川岸まで入ったら、水門or発電所らしきものが見えた(写真222)。家に帰って来てから調べたら、これが④川茂発電所だった。ほとんど落差がない発電所だがダム式+水路式の発電所とのこと。水量が豊富なのだろう。この発電所下で水路に入った水は、遠く猿橋にある⑤駒橋発電所まで水路で送られている。

      写真222 ④川茂発電所から出る水路

 この下流の「かわも橋」から、桂川の左岸につけられた自動車道を進むと、富士高速の下を通り(写真224)、その先にリニア実験線のトンネル緩衝工(写真225)が見える。緩衝工とは、高速で列車がトンネルから出るときに発生する大きな空気音を下げる構造物である。

写真224 桂川は富士高速とR138の下を通り抜ける

 写真225 前方にリニア実験線のトンネル緩衝工が見える

 リニア実験線の下を潜り(写真226)、直角に曲がって田んぼの中を歩いてゆくと、自動車用と歩行者用が2本並んでいる橋で桂川を右岸にわたる。この橋の一つ下流に大輪橋があるが、その下流でもなかなか見事な渓谷になっている(写真230)。

      写真226 リニア実験線の下を潜る

   写真230 大輪橋下流の桂川もまだまだ渓谷美が続く

 これから先は道路が川から離れるので桂川大橋まで川は見えない。桂川大橋を渡ると大月市に入る。緩い登りを登り、下りに入ったあたりで右手桂川の谷を見下ろして驚いた。20mほどの河岸段丘上の市街地の下で、川面から5mぐらいしか高くない位置に、建売住宅と思える住宅がビッシリ建っていた(写真232)。これでは数十年に一回の大水のときには流されるのではないか。他人事ながら心配である。

    写真232 桂川の水面近くにある建売住宅

 その少し先で中央本線と県道の新大月橋の間で、大月駅方を見ると、格好の鉄道撮影ポイント(写真234)であることが分かる。すなわち、線路がカーブしているので、振り子式車両の特急電車がカント以上に傾いている写真が撮れるからである。

 桂川はこの鉄橋を潜ると、笹子川を合流し、大きく右に曲がって東に向かう。その東に向かったあたりの流れが写真238である。

写真234 格好の鉄道写真ポイント(左:県道新大月橋、右:中央本線)

   写真238 東に流れを変える桂川(県道512の上から)

大月から先は相模川踏破2につづく

 

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